第2686話 73枚目:隠し部屋

 そっち?


「えぇー……」


 司令部がつきっきりなっている情報報告掲示板に、まお……城で一番高い尖塔での発見を書き込んだから、当然即座に司令部と自力判断したベテラン勢も合流してくれていた。

 だから空間を歪めて作られていた隠し部屋はすぐに暴かれて、中にあったものも判明したんだが……まぁ、私の思わず零れた呟きの通り、中にいたのは異界の大神の分霊じゃなかった。

 だからと言って重要な物では無かったという事は無いというか、ガッツリどう考えても重要な物だったんだが、うーんこの、というべきか。


「空間的隠し部屋の、鍵の管理室とか……」

「恐らくは予備の鍵だと思われます。各個人の部屋のものもあるようですが、鍵を持っていないと部屋を認識できない、非常に高度な隠蔽が施されたものも存在するようです」


 この城で魔族と遭遇して身ぐるみ剥いだ時はそんなもの無かったんだが、インベントリに入れていれば分からない。それでも城としての構造と言うか間取りには違和感が無かったので、司令部も見落としたのだろう。

 もしくは、可能性があるのは分かっていても、隠蔽のレベルが高すぎて見破れなかったか。防御とか隠蔽って、条件を付けるといきなり突破する為の難易度が上がるからな。

 まぁこの場にはベテラン勢も集まってきていたので、司令部によって鍵が調べられ、重要度が高そうなものを優先的に城の中を走り回ってもらっている。そして実際、ここまで見つかっていなかった部屋が次々発見されているようだ。


「しかし、それでいくとよくゲートが見つかりましたね?」

「複数人数による不定期な出入りの都合及び大規模に空間に干渉する儀式級魔法ではあるという事で、空間的に隠す魔法と干渉する可能性が高いですね」

「なるほど」


 と言う事は、今まで見つかっていた部屋はいつでも誰でも出入りできる部屋だったって事か。なるほど? まぁ生活スペースだって、お客を招いたりする事はあるだろうし、誰でも入れる部分を確保しておかないと色々不便だもんな。

 ただまぁ当然ながら、より機密性の高い情報とかそれこそ研究とかはそういう鍵が掛けられた空間で行われるものだ。となると、ここまでの誰でも出入りできる、まぁ共有できる空間でもあれだったのって事を考えると……。


「あぁ、まぁ、それはそうですよね……」


 案の定、というべきだろう。次々報告掲示板に上げられる鍵によって隠された部屋の発見報告と、内部探索の結果は、まぁ、酷いものだった。主に人道的に最低という、その言葉にすら失礼な方向で。

 不死族もたまにそれはどうなのという方向に進む事はあるが、彼らは正真正銘の不死だ。どんな希少種族の素材であろうと、気の遠くなる程の手続きや関係性の構築が必要だろうと、時間を惜しむ必要もなければ理由も無い。

 希少種族だって真っ当に交渉し、オーケーを出す個体が現れるまで待てばいい。手続きは素直にすればいいだけの話だし、関係性の構築だって、3代も続けて友好的に接すれば十分だ。だから、こういう非道な手段に手を出なくてもいいという事。


「待てないから奪い、省略したいから盗み、結果を急ぐから反応を早める訳で。……まぁ不死族の方も、そういう意味で真っ当な倫理があるとは到底言えない御仁がいるのは確かなんですが」


 彼らにとっては「ほんのちょっと」の手間と時間を惜しむ事で、この先出現するかもしれない希少種族を調べられるまでの時間が増えるのは、「非効率」なのだ。だからやらないだけ。

 正直、倫理観的には似たようなものだろう。恐らくは今しかいない大神の加護の持ち主である召喚者プレイヤーにも、手あたり次第に声をかけまくっていたようだし。幸い、人柱もとい検証班が情報の共有を条件にオーケーを出したからそこで止まっただけで。

 ……ま、竜都の大陸で守られている湖。それにまつわる話を聞く限り、魔族も恐らくは刹那の女神を選んだのだろうから、研究ではなくそれによって得られる利益の方が大事っていう価値観なんだろうしな。

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