第2681話 73枚目:残されていたもの

 いくら隠密行動をしていたとしても、どうしても多少は見つかるし、見つかるたびに無力化していれば、お城の中で動く人数は減っていく。

 その減り方は隠密行動をしている人数が跳ね上がった事で一気に加速した訳だが、意外な事に、それなりに動く人数が減ったと体感できるぐらいになってもなお大きな騒ぎにはならなかった。

 昼を過ぎて夕方になっても動きが無いのは逆に不安になったんだが、どうやら今お城における中枢を担っている人達は、中心部に近い一部の部屋に集中していて、他の事は放り出すのに近い事になっているようだ。


「まぁ本来なら下っ端でもお城にいるんですし、相応に厄介だったんでしょうけど」

「下手に自信があるから闇討ちされるんすよねぇ。謙虚でいようと思うっす」


 状態異常対策をしているか、近寄れない防御を張っている場合は私が締めおとすが、そうでなければフライリーさんかルチル、ソフィーナさんが系統別の魔法で眠らせるか麻痺させればいい。ソフィーネさんは武装解除をして、私は封印する。もはや流れ作業になって来たな。緊張感は維持してるけど。

 しかしそれはそれとして、その中心部に近い一部の部屋っていうのが異世界へのゲートがあるとか、異界の大神の分霊が捕らわれている場所なんだろう。なので恐らく、特に隠密能力の高いメンバーが向かってくれている筈だ。

 私達は引き続き城の中でも探索の手が回っていない部屋を周り、資料を探す。それこそ今回追い詰められる原因になった、世界三大最強種族に手を出す計画の計画書とかが見つかればいいんだが。


「……、」


 なんて思いつつ、どうやらシーツや毛布といったものが積み上げられている部屋、恐らくリネン室になるだろう部屋を確認している時に、私はそれを見つけた。

 ざっと城内探索で分かった情報を司令部がまとめたスレッドを確認するが、この部屋にこんなものは無い筈だ。少なくとも先行した斥候組は見つけていない。だからもしかしたら使われていないのかもしれないが、調べた方がいいだろう。

 ただその情報の共有より先に、とインベントリを手早く操作し、そっとパンを差し出す。何にも入っていない、ただのふわふわした白いパンだ。


「……ソフィーナさん」

「なぁに。……あら」

「お願いします」

「任せて」


 恐る恐ると震えながら伸びてきたが、パンを掴んで瞬間的に引っ込む。押し殺したような泣き声を確認しつつ最小の声をかけてその場を交代し、私は報告スレッドに書き込みだ。


「どしたっすか、先輩」

「生存者確認です。ついでに、地下に通じていると思われる隠し通路も発見しました」

「! いたんすか……!?」

「えぇ」


 ようやくの生存者だ。いやぁ、やけに古びて薄くなった毛布が積み重ねられてるなと思ってその下を覗き込んでみたら、ぱちっと目が合うとは思わなかった。

 ちなみに大神の分霊ではない。隠し通路が見えた隙間はギリギリパンが通るぐらいしかなかったから種族までは分からないが、私を見ても騒がず、私が差し出したパンを素直に受け取ってくれたあたり、竜族同族だろうか。

 しかし気配を探ってもまるで分からないな。何か気配を消す細工をしているのか、それともそういう能力のある種族がいるのか。そもそもこの通路、正規のものじゃなくて地下から掘り進めてきたって可能性もありそうだ。リネン室に湿気を持ち込む理由がない。


「うーっす、生存者護送班現着ですっと」

「ちぃ姫流石だわ」

「いやここは分からんって……」


 私が生存者の情報を書き込んだら、ちょっとスレッドが騒がしくなったものの、すぐに隠密行動に優れた召喚者プレイヤーが合流に動いてくれた。第一陣の顔見知りなので安心だ。

 そこからもう少し調べた結果、この地下通路は過去の誰かが掘ったものだという事が分かった。つまり非正規の通路だな。それも他の通路にぶつからないように、振動が伝わらないように、非常に慎重に掘り進められたらしい。

 誰が掘り進めたかと言えば、まぁ当然捕まっていた人な訳で。良く見つからなかったな、と思ったら、実際に掘り進めていたのは使い魔だったようだ。誰かが全自動で穴を掘る使い魔を作り、遺したらしい。


「すげぇ人がいるもんすねぇ……」

「なおこの通路を使うと決意したのは、食事が届かなかったかららしいですよ」

「あぁ、生存者の面倒を見る人がいなくなったんですね」

「人数を地道に減らしたかいがあったかしら」


 それに、やっぱりあった地下牢への、魔族側からすれば想定外な侵入経路にもなる。重要な実験室にも通じているだろうから、もう少し中央だと思われる場所に近づけるだろうか。

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