第2676話 73枚目:敵の情報

 大勢の召喚者プレイヤーがこの空間に合流し、そこから加速状態で半日経った頃、斥候組の内約半数が戻って来た。中にはうちの竜族部隊の人達も混ざっている。

 ただ、エルルはその中に混ざっていなかった。ルシルとルディルもだ。とはいえ戻ってこなかったのは斥候組の中でもレベルが高い方から半分なので、そちらに入るのはまぁ当然なんだが。

 さて斥候組が戻って来たという事は、ある程度まとまった情報が確保できたって事だ。もちろん定時連絡はしていたしそこでやり取りもしていたんだが、やっぱり隠密行動中だと、周りへの警戒が優先だからな。


「……まぁ、そんな気はしました」


 貴重な相手の国の首都に関する情報であるだけに、その報告は連合軍にも共有される。その都合上報告場所は連合軍本隊の近くであり、連合軍を混乱させかねない召喚者プレイヤーはそこから離れた場所で待機していた。

 なので司令部が更新する全体連絡スレッドに書きこまれた内容を見るという形で情報を確認しているんだが、残念ながら予想通りというべきか、既に異世界へのゲートを開く準備は終わっているらしい。

 というか、ゲート自体は既に開かれたか、今も開かれているらしい痕跡があったとの事。と言う事は、異世界から何かを引っ張り込むか、何かを送り込んだという事になる訳だが。


「まさかのそこでそう繋がりますか……」


 ここで話は変わるんだが、ここまで調べた結果、首都の中心にいるこの国の魔族がどういう能力かっていうのも大体分かった。ある種正当進化しているその先に何があったかっていうと、空間と魔力に加えて、ある程度時間も干渉できるようになったらしいんだよな。

 そして空間と時間に同時に干渉する事で異世界へのゲートを作り、魔力に長けているから召喚系の魔法を使う事で異世界から何かを引っ張り込む事に成功したらしい。同様に、既に異世界へ何かを送り込む実験もまぁしない訳がない。

 ただここでの問題は、引っ張り込む事に成功した何かが、よりにもよって異界の大神の分霊だったって事だ。そして分霊とはいえ大神を捕まえる事に成功した魔族達、ここで研究者気質と天突くほどに高いプライドが悪魔合体を起こしてだな。



 異世界の「神」を取り込む事で、自分達をさらに進化させようとしてるらしい。



 うん。そうなんだ。そういう事だったらしい。

 つまりは、「名前の無い邪神」っていうの、こいつらの事だったんだって。正しくはこいつらが送り込んだあれこれが「名前の無い邪神の眷属」として認識されてたんだってさ。

 ど――――りで面倒な仕掛け方をする筈だよ。邪神と言うならもっとゴリ押しとか理不尽な能力を振りかざして暴れるとかしても良さそうなのに、やたらと用意周到にこれでもかと策を巡らせていたから随分頭があるなと思ったら、そういう事だったらしいんだよな!

 まぁそれはそうだな? だって空間に加えて時間にも干渉できるのなら、異世界の過去に遡って干渉する事だって出来るだろうさ! しかも分霊とはいえ大神が捕まってるんだ、その分霊に縁のある神や修神おさめがみを辿って取り込んでいけば、その内大神の分霊そのものも堕とせるよなぁ!?


「……一応まだギリギリ幸いなのは、その、大神の分霊自体はまだ無事って事でしょうか……」


 私が開いたスレッドを覗き込む形になったサーニャも絶句してるよ。まぁそれはそう。文字通り神をも恐れぬ所業ってやつだ。傲慢の果てに神すら堕として取り込むとか、もう、言葉が出てこないがダメだろ。

 同時に納得がいったけどな。「遍く染める異界の僭王」が喋っていた、お手本のような侵略者の思想。あれの元はこの国だったんだ、と。どこまで異世界の過去に干渉出来たかは分からないが、少なくともこちらに来た時点ではこの国の何かと混ざっていたのは確定している。

 過去に干渉して自分達の思想を埋めて混ぜて取り込んで、そして自分達の力にしようとしたんだろう。なおかつ、その方法で世界の完全支配が成功しかけていたっていうのがなお悪いし。

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