第2675話 73枚目:始動待ち

 そもそも私がこのタイミングでログアウトする事にしたのは、司令部への相談と全体の状況を見ての事だ。つまり、同じタイミングで大勢召喚者プレイヤーが再ログインしてくるって事でもある。

 まぁ、イベント祭りの盛り上がりには参加したいもんな。そして盛り上がりを楽しもうと思えば、フリアド基準の大規模戦闘に参加しようと思えば、特級戦力に時間を合わせるのが一番確実だ。召喚者プレイヤーの稼働率的にも、司令部による支援的にも、そこが間違いなくベストとなる。

 そしてそれは情報を待ってから「モンスターの『王』」の過去編に挑戦しようとしていた召喚者プレイヤーも同じだろうし、むしろそこで待っていたのはこのタイミングでここに参加する為だろう。だから、一気に召喚者プレイヤーの数が跳ね上がるのは分かっていた事だ。


「あーあー。ここから見るだけでも随分と連合軍が右往左往していますね」

「そりゃ、これだけ一気に種族入り乱れて人数が増えればそうなるよ」


 ただまぁそれは、召喚者プレイヤー及び召喚者プレイヤーと長く行動を共にしている仲間のみに通じる話だ。当たり前だが、当時の時間軸で、召喚者プレイヤーって存在の認識もちょっとあやふやな連合軍の人達には訳が分からない。

 もちろん私はその混乱を加速させない為に、そこそこ離れたところで姿を隠しながら待機している訳だが、まぁ大変な事になってるな。何せ連合軍というだけあって、色々な種族がいる。そしてここまで来た召喚者プレイヤーの中には、各種族の上位種や貴種に進化している人もいるのだ。

 その人達がうっかりと姿を見られて、それでその種族の国から来た部隊の人達がおろおろしてるんだよな。本当に私が言うなって話なんだが、今こうして隠れているので許してほしい。


「にしても、あの状態で共闘する事になるんだよね? 不安だなぁ」

「まぁ、私達も人の事は言えませんからね。その辺はもうノリと勢いで押し切るか、あちらに考えるのを止めてもらうしかありませんし」

「……。そう言えば姫さんがまだ認知されてないんだっけ」


 そうだぞ。なのでここにきて残ってくれている竜族の人達にとって、私は野良皇女だ。私を末娘として認知してくれたのは、ここから約1万年後の現代竜族における竜皇様だからな。だから素直に姿を隠してるんじゃないか。

 まぁ最終、相手の国の首都で総力戦とかいう展開になったら、隠れてる場合じゃないし出し惜しみしてられないって事で、全力で旗槍を旗として掲げて領域スキルを展開するんだけどな。

 実際、何が待ってるかそろそろ本気で分からなくなってきたから。“呑”むと直接対峙する前に「モンスターの『王』」の過去編が来て、その流れで全ての始まりのタイミングであるこの世界の過去に来ている。


「……堕ちて変質したとはいえ、元が異界の大神ですからね。そもそも、まともな戦闘になる訳が無い、と言われればそれまでですし」

「どういう事?」

「“呑”むとやらが控えている事は、随分前に示唆されていました。しかし直接相対する前に、その“呑”むとやらが出現する前にどうにかする形の空間に送り込まれています。と言う事はすなわち、“呑”むというのは出現したら終わりの、直接戦う事が出来ない類の相手なのでは? と予想できる訳です」

「……あー……。でもそれはそっか。大神だもんね」


 今はエルル達斥候組が一旦戻ってくるか、戻ってこれない理由の報告を待っているところだ。落とせそうな町も大体落とし切ったので、大人しく待てているのだが。なので、私の護衛として傍に控えているのはサーニャである。

 “呑”むとは一体何なのか、となりつつあるが私の予想を説明すると、サーニャも納得したようだ。そして、珍しく息を吐く。


「元が大神だっていうんならさ。それこそ分霊をいっぱいもてなした分で戦ったことになってればいいのにね。戦争よりもご飯いっぱいの方が平和でいいよ」

「それは本当に全力で同意です」


 それはそう。若干消化不良になりそうな気配がしなくも無いが、まぁでも、それはそう。

 ……そうなれば平和でいいんだけどな。戦闘力バトルじゃなくて、クッキングバトルの方がずっといいよ。

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