第2674話 73枚目:最後の休憩

 まぁ大変順調に連合軍の手が回らない距離と方角の町を落としつつ、中には同情の余地がないどころか町を落として住民に感謝されるなんて場所もあったりしたので、それなりにこの国の魔族というのがどういう方向に自己改造したのかが少しずつ見えてきた。

 ちょっと意外なと言ったらあれかもしれないが、どうやら魔人族という種族の長所、魔力と空間の扱いに長けているという部分を伸ばす方向にいったらしい。良い所をさらに伸ばす、まぁ、正当な方向の進化だな。

 そしてこの進む方向が正当だという自覚があった。そのことこそが、魔族の中でも特に選民思想が強い理由だったらしい。まぁそうだな。真っ当に強い奴が一番強い。そういう方向にはいきがちだ。


「だからといって、優れているのだから他を虐げていい、という発想になるのかは分かりませんが。そして本当に自分が強い事を知っている三大種族にボコボコにされた訳ですが」

「姫さんは容赦ないね?」

「容赦する必要がどこにあるんです。そもそも、竜族私達が普段からどれだけ制御訓練を積んで世界中走り回りながら心無い誰か達と戦い続けていると?」

「まぁそれはそうなんだけど」


 なお、若干不死族だけは擁護できない気もするが、それはさておく。

 まぁそんな感じで斥候組からの報告を待ちつつ支援として町を落として回っている間に、加速状態で3日が経過した。ので、私は一旦下がったところで野営拠点を置いてログアウトだ。

 即座にタイマーをセットして、軽くストレッチをしつつ時間を待つ。残りリアル2時間半って事でだいぶやきもきするが、ここで連続ログイン時間をリセットしておかないと、最後の最後まで粘れないからな。


「イベント期間としては今日の日付変更線まででも、連続ログイン時間を残しておけば、クリア後に何かあったとしても、ギリギリ対処できるかもしれないし……」


 もちろん、クリアできずに最後の大陸が最初の状態に戻る、という可能性もゼロではない。かなりしんどいし正直やりたくないが、残念ながら今のペースだと、クリアできるかどうかは怪しいと言わざるを得ないだろう。

 全力でクリアするつもりではあるが、想定外の大きさや方向性によってはあり得ない訳じゃない。本当に時間が無さすぎる。せめてもう1日、日曜日である明日まで時間があれば、絶対クリアすると言い切るんだが。


「……こればっかりは言ってもしょうがないな」


 諦めはしない。最後の瞬間まで足掻くのは当然だ。だがそれはそれとして、最悪の事態は考えておかなきゃいけない。何しろ最後の大陸には、取り返した土地はまぁ当然として、ティフォン様の聖地とか完全新造の竜都とか、「モンスターの『王』」になり果ててしまった修神おさめがみ及び神の神殿があるんだから。

 ……いやまぁ、改めて加速状態の全体連絡スレッドを確認したら、どうやら各ステージ、それぞれの条件を満たすというか強く興味を引くと、分霊を預けてもらえる可能性がそれぞれあるらしいんだが。

 つまり私におけるナージュのように、それこそレーンズとかでも、その分霊か、分霊になり得る何かを渡されるらしくて、実は既にそれなりの数の分霊がこっちの世界に来ているらしいんだけど。


「まぁ、それはそれとして。神殿は必要だし、また最初から開拓し直しとか本当にしんどいから止めてほしいし」


 精霊がまた捕まる可能性まであるもんなぁ。本当に止めてほしい。

 とはいえ、その最悪に備えるためのログイン時間の調節だし、また同じ規模のスタンピートが発生したところで、既にその原因も分かっていれば召喚者プレイヤーという追加戦力もある。

 だから全ての始まりの時のように、訳の分からないまま追い詰められるって事は無い筈だし、何なら最後の大陸だって、竜都と新しい聖地ぐらいは守り抜けるだろう。


「そもそも何度も世界全体を巻き込む戦いがあったせいで、各集落の防衛能力が跳ね上がってるから、同じ結果にはならないんだけど」


 そんな事をつらつら考えている間にタイマーが鳴った。

 さて……笑って終われるように、全力を尽くすとするか。

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