第2672話 73枚目:スピード攻略

 正面からの戦闘で、やり過ぎに注意しつつ私の領域スキルを浸透させる事は無い、と言っても、まぁ、味方へのバフがかかるだけでも総合戦力はかなり違う。制御力を鍛えてきたベテラン勢でも慣れるのにしばらくかかってたからな。

 なお、それだけの高倍率バフがかかっても、エルルが別行動中なので代理で指揮を執るヴィントさん及び竜族部隊の人達はいつも通りか更に動きが良くなるだけだ。職業軍人は伊達じゃないんだなぁ。

 それに元々勤務態度があれなだけで能力はある人の集団なので、まぁ、その、相手からすれば、小細工をしてくれた方がまだ対応できたかも知れない、まであるだろう。


「ほい制圧完了っと。殿下ぁー、この町どうすんだー?」

「こちらの司令部を経由して、連合軍に陥落を伝達します。とはいえ途中で降参していましたから、武器の類だけしっかりと回収もしくは封印して、住民へのフォローをしっかりとしてください」

「はいよぉ」


 相手の指揮官が有能だったからか、途中で白旗を振っていたからな。まぁそれはそう。その方が私も助かるよ。戦闘時間が短くて済むし、敵も味方も消耗が少ないに越した事はない。

 一応この町の責任者であり、総合指揮を取っていた人と面会もしたが、自分の事は諦める前提で後の事を何とかしよう、という覚悟が見えていた。いや、そっち方向の処断はしないが。命とかいらんが。


「しかし、敗者は罰を与えられるべきでは」

「だとしても首はいりません。ケチくさいと思うかもしれませんが、私は無駄な恨みは買いたくないんですよ。生かして恩を着せて潜在敵で無くす方が楽でいいです」

「……はぁ」


 戦国の感覚を前提として話を進めようとしないでほしい。いらないから。マジで。死なずに生きろ。

 というか、そういう判断をして覚悟が出来てるって時点で、言っては悪いが魔族の中ではだいぶマトモな部類だ。しかも話を聞いてみた感じ、この人とこの町は外への侵略に加担していないし流れてきた捕虜を人道的に扱っている。そんな貴重な人を死なせてたまるか。もったいない。


「我ら魔族は優れた種族。他より上位に位置し、相応の能力を持っている。故にこそ我ら以外の下等な存在と、弱者たる敗者には慈悲を持って接するべき。少なくとも父からはそう学びましたのでな」


 ……理由は実に魔族らしいが、まぁ、実際の行動がマトモであれば問題は無い。ひたすらにプライドが高いだけだ。能力がある分だけの責任も認識しているし、その責任の為に努力もしているから。

 それに高いとはいえ正しい意味でのプライドだから、敗北は敗北としてちゃんと受け止め、勝者である私の言う事もちゃんと聞いてくれるようなので、大丈夫だ。

 敗者には慈悲をもって接するべき。という理論があったのを自分にも適用してね、と言ったらとても納得してくれたので、連合軍の言う事を聞くんだよと言い含めて、次の町へ移動である。


「あれ? 殿下ぁ、種族についての話とか聞かなくて良いのか?」

「町にあった迎撃設備は旧式でした。流れてきたというより押し付けられた捕虜も元々の状態が悪いかお荷物な人の割合が高い。恐らく国の中でも冷遇されているのでしょう。無理に情報を得るより、支援して印象を良くしておいた方がいいです」

「なーるほどぉ? ま、他にも町はあるし、あんなマトモな魔族はそうそういねぇもんなぁー」


 そういう事だな。司令部が把握しているだけでも、もっとダメな状態だった町はあったようだし、何なら捕虜と住民が結託して連合軍に協力したって場所もあったみたいだから。

 種族としての情報が欲しいのも確かだが、どうせ種族としては一緒か近いんだ。それなら、別に特に好感度も、戦後のこの国にもいらないなって奴から聞けばいいだろう。

 ……戦後のこの国、が、存在しない以上、その辺は完全にこちら側の自己満足だしな。

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