第2660話 73枚目:備えた相手

 流石に修神おさめがみも守らなきゃいけないという事になり、元々守るものが多く手が足りないと認識していたナージュは素直にこの後何があるのかを話してくれた。

 ここまで話さなかった理由? 私が何も考えずにやってる事が的確だから、情報はギリギリまで絞った方がいい動きをしそうだったからだってさ。……うん。ここまで過去編を全部一発クリアしてる以上、若干否定できない。

 ともあれ、具体的な話を聞ければこちらから出せる手札もある。色々準備してきたからな。もちろん無駄遣いは良くないが、出し惜しみをして失敗したら意味がないどころではないし。


〈随分と用意周到だなおい〉

「何があるのか分からない前提で来てますからね。現に想定外がいくつも出てますし」

〈……確かに記憶が盗まれてたのも想定外なら、その犯人が唆された修神おさめがみとか分かる訳ねぇか〉

「それ以前に、神の一部に組み込まれる歯車に細工するっていうのも想定外なんですよ。そもそも塩が汚染されてるってどうなってるんですか」

〈あー……〉


 そういう事なんだよな。たぶん塩は本体が工場=塩気が苦手なナージュがあんまり調べないだろうと踏んで細工したって部分もあるだろうけど、まさか中空で比重が同じになる歯車を作ってそこに力を封入するなんて思わない。

 恐らく最初に手を入れたのは塩で、塩によって職人(神官)の人達に影響を出してその辺の感知力を落としてから歯車を組み込む、だったのだろうが、本当に準備が徹底している。

 それぐらいしなきゃ長く在り続けて一切その力を陰らせない、この世界でも上澄みに属する可能性の高い神は落とせないのかもしれないが。そもそも狙うなって話なんだよな。狙うんだろうけど。



 私も魔法と持ち物から、ナージュの考えていた事に使えそうなものを提示して、話し合いの結果一部を修正して若干職人の人も巻き込み、迎えた夕方。

 工場の通常業務が終わった後の時間であり、職人の人達は片付けを終えて家に帰ったり寮の部屋に戻ったりしている。どうやらこの工場では事務関係も大体はナージュが担当しているのだそうで、外との話し合いが必要な時なんかはナージュがメインになって話をするんだそうだ。

 職人の人も、熟練組から1人、若手組から1人を選んで同席するが、それはあくまで顔つなぎの意味が強いとの事。継承……と思ったが、ナージュは神であり絶対現役を退かないと普段からいいきっている。なので問題は無いというか、ナージュが問題を潰しているというか。



 まぁこれも現場に居続ける為に必要な事だろうしな。と思いながら、私は工場の端にある応接室の隅で静かに控えていた。中央のテーブルには、こちら側の真ん中にナージュ、ナージュから見て右側に熟練組の職人さん、左側に若手組の職人さんがいる。

 その対面には2人のお客が座っていて、それぞれの後ろに1人ずつ立って待機している人がいる。部屋の扉は若手組の職員さんがいる方向の角であり、私は扉と同じ壁の逆角だ。

 にこやかな世間話から入った辺り、友好的な取引相手といったところか。夕方、とナージュがいっていたのは、この来客の事だったらしい。そして実際迎えてみて、私も、なるほどな、と納得した。


「(全員あの色で顔どころか服もみえない程塗り潰されてるとか完全にアウトじゃねーか)」


 内心なので素が出てしまったが、まぁ、そういう事だ。お陰で私は声から判断して、メインになって話している人が男性という事しか分からない。座っているもう1人は挨拶の時の声からして女性。後ろの護衛2人と思われるのは、喋ってないから不明だ。

 いやまぁ魔視の強度を限界まで下げればいいだけなんだろうが、ここまで塗り潰されている以上はこの全員が名前の無い邪神の眷属と契約しているか、手遅れレベルで影響を受けてるって事だからな。別にそこまで外見情報はいらないかなって。

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