第2654話 73枚目:備えと発見

 そこからもう少し話を聞いたところで、黒子姿の修神おさめがみはおねむだったので場所を移すことになった。修神おさめがみが寝るのは知ってる。レーンズもそうだったし何なら寝ぼけてたからな。ナージュ曰く、神になったら寝なくなるタイプとそれでも寝るタイプがいるんだそうだが。

 まぁ場所を移すといっても、ナージュが全体の進捗を確認して回るのについていくだけだが。その、黒子姿の修神おさめがみを唆した何者かも気になるといえば気になるが、今回解決できる問題かは分からないし。

 それにナージュ曰く、心当たりはあるんだそうだ。


〈つっても、俺自身は動けねぇからな。外とのやりとりだが、ここ最近町の方で、ひったくりとか万引きが増えてるらしい。うちの奴らの家族も、そっちに住んでる方は影響があったみてぇだし、警戒はしてたんだが……〉


 被害者にも加害者にもこれと言った共通点は無く、似ているのは罪の種類のみ。ただその罪の種類が今回の修神おさめがみも同じだという事で、ナージュは何か関係があるのではと思っているようだ。

 なおかつそれらの罪を犯した加害者は、捕まった直後か遅くとも翌日には罪を犯した記憶そのものが綺麗に消えていたとの事。ほう?


「つまり、唆した元凶が接触した可能性が高い、と?」

〈それ以外にはいねぇだろ。そもそも、罪を唆す時点でろくでなしだ。自分は手を汚さずに周りに害を与える。性質が悪りぃ〉


 けっ、と吐き捨てるように言い切るナージュは相変わらず機嫌が悪いように見えるが、これはたぶん本気で警戒しているが故なんだろう。長く生きて、生きる事が出来ただけの信仰基盤を持っている神が本気で警戒する相手。そんなものは限られる。

 まぁつまり、名前の無い邪神か、その眷属だ。いやまぁ他にも邪神はいるだろうが、ここまでことごとく全部名前の無い邪神の眷属のせいだったからな。恐らく今回もそうだと考えて間違いない筈だ。

 もちろんそう見せかけて別の黒幕がいるって可能性も無くは無いから、一応思考の隅にはおいて置くが、だとしても、少なくともこの世界的に一番厄介なのは名前の無い邪神とその眷属だろうし。


「私が町の様子を見に行きますか?」

〈いや、ここに居ろ。疑ってる訳じゃねぇしこっちまで来て負けるとは思わねぇが、ちっとばかし守るもんが多い。俺だけじゃたぶん手が回らん〉

「分かりました」


 なるほどなぁ。だからおねむだった黒子姿の修神おさめがみが寝ている部屋に、しっかりとした何も通さない防御を張れっていったのか。結界魔法と防御魔法の組み合わせに、修神おさめがみならその中でも動けるだろうって事で封印魔法も重ね掛けてきたからな。物理は当然、空間を操作しても入れない状態となっている。これで防げなかったらどうにもならない。

 なのでそういう話をしつつ工場を見て回ったのは、たぶん防衛時の間取りや動線の把握なんだろうなと思いつつ。一応私も魔視の強度を上げておいたが、流石神の本体というべきか、鉄色以外は見当たらなかった。見当たっても困るが。

 そう。困るんだよ。


「本体に影響出てるとか完全にアウトなんですよ!」

〈は?〉

「何であなたの本体である工場に組み込まれて動いてる歯車に、苔と錆を混ぜたような色がこびりついてるんですか!?」

〈は!? なん、俺にぃ!?〉


 どういう事だよ! 本神も驚いてるあたり、本当にどういう事だよ!!


〈おいおい待て待てどういう事だ、俺は何も不調とか無いぞ!? 見間違いか外に出てる部分とかじゃなくてか!?〉

「じゃああの天井付近で回ってるあの歯車はあなたの一部じゃないんですか?」

〈……あれは俺だな〉


 ダメじゃねーか。

 なお問題の歯車は今も動いている。つまりどこかで動いている設備に力を伝えている、すなわち仕事をしているって事だ。何せ絶賛この工場は、この工場の核となる歯車の新調の為に稼働しているところだからな。

 ここまで魔視でみてきたが、流石にこんな明確に色がこびりついている、或いは本当に錆びているか苔が生えているような色になっている歯車はこれが初めてだ。他にいっぱいあっても困るんだが。本当に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る