第2653話 73枚目:理由の理由

 さて、修神おさめがみも落ち着いたので結界と防御魔法を解除してからナージュに聞いたところによると、職人の人達は無事昨日の記憶を取り戻し、打ち合わせが終わったって事で作業に入ったらしい。遅れは軽微で済んだようだ。良かったな。

 一方黒子姿の修神おさめがみだが、こちらはどうやら一昨日までの4日分の記憶はもう食べてしまったらしく、返せないといっていた。まぁ、だろうな。しかし本当に、どうしてこんなある意味わかりやすいコスプレもとい格好をしていたのか。


「? これ、きるといい、きいた」

「……誰に、いつ聞いたのか、教えてもらっても?」


 と思って聞いてみたら、何か出てきたな情報が。ついでに様子を見つつこちらも煙というか香りをつまみ食いしていたナージュも僅かに反応したので、気付いたようだ。

 唐草模様のほっかむりは自分で作ったものらしく、これに入れておけば普通の物でも持ち歩けるとの事。なので瓶に入ったチップ型のお香を引き換えに話を聞いたところ、やっぱり入れ知恵というか、ある意味盗みを唆した奴がいたらしい。

 それはこの工場の近くにある町で出会った誰からしく、神の言葉の記憶はお腹がより膨らむからオススメだといわれたんだそうだ。続けて何日も食べるといい、ともいわれ、その時はこういう格好をするといいと。


「なるほど。……ところで実際、お腹いっぱいになりました?」

「ならない! これうま!」

〈だろうよ。うちの職人は実質俺の神官だ。神官の祈りや信仰は基本その神のもんになるから、そういうのが抜け落ちた分だけ薄味なのは間違いねぇし、糧としても軽くなる〉


 これうま! といいつつ私があげたチップ型お香入りの瓶を掲げて見せる黒子姿の修神おさめがみ。そうか美味しかったか。気に入ってくれて良かったよ。乾燥対策で小さい瓶に入れているが、お香だからしばらくは持つはずだし。

 まぁ一番はちゃんと面倒見てくれる人もとい神官になってくれる人を見つけて、その人に捧げてもらう事なんだろうけどな。その為には真っ当な修行をして信仰を集めて……いやそれ以前に知名度がいるか。まずこういう修神おさめがみがいるって知ってもらわなきゃダメだな。

 ……ちなみに、この修神おさめがみは霊体系であり、ある意味私の知っている神に近い存在であり、恐らく普通の人には見えない。


「というのがほぼ確定している訳なんですがナージュさん」

〈止めろ止めろそうやって理屈で詰めてくんな、俺以外にいないのが分かりやすくなるじゃねぇか〉

「実際いないのでは? 私はここに長居できる立場ではありませんし、お香だって無限に出てくる訳では無いんですよ。今ある分を食べきったらまた餓えてしまう可能性は高そうですがそれでいいんですか」

〈だぁクソ止めろっていってんだろ、俺は現場に居続けるんだよ!〉

「教育は最前線ですよ。何せ次世代を担う子供を相手にするんですからね。すなわち次世代への影響を及ぼすという事。子供の体力もありますし最前線の中でも特に激戦区ですよ」

〈丁寧に端から外堀を埋めていくな!〉

「失礼な。本気で外堀を埋めるなら職人さん達の説得にかかってます。ナージュさんだって直属の神官の皆さんが声を揃えて頼み込んだら絶対断れないのが目に見えていますし、直接訴えているだけ良心的ですが?」

〈えぇいド正論を並べんじゃねぇ!〉


 という説得()の後に、無事ナージュは黒子姿修神おさめがみの面倒を見ることを了承してくれた。ははは。ちゃんと言葉を尽くすって大事だなぁ。


〈ちっ……。いや待て、3日後に大神の視察があるからその時に説明して引き取ってもらえりゃ〉

「大神が認知して今の状態だっていうの分かってます?」

〈ぐっ〉


 いやー、本当に大事だな。

 ところでナージュ。さっきからひょいひょい煙(香り)食べてるけど、君本体工場だろ。錆びないか? ヤニほどではないとはいえ、煙は基本金属製品の敵だぞ?

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