第2652話 73枚目:原因理由

 さて、意外とあっさり職人の人達の記憶を取り返すことが出来た。夢に関する修神おさめがみというだけあって、この修神おさめがみでなければ記憶を返すことは出来ないのではと思ったが、そこは年季の違いでナージュがどうにか出来るそうだ。

 と言う訳でナージュは早速職人の人達に記憶を返しに行って、私は相変わらず封印魔法の箱の中で暴れまくっている、泥棒コスの黒子という格好の修神おさめがみと部屋に残されることになった。

 しかし何でこんな格好をしているのか、と思ったんだが、素直に聞いても答えてくれそうにない。まぁ話をしていたところで修神おさめがみの言葉が分からない可能性もある訳だが。


「夢にまつわる神なら、通常の食べ物は食べにくいかもしれませんし……」


 と言う事でしばらくインベントリの中身を見ながら考えて、最終的に取り出したのは、お香だ。これなら種族分類が神であれば「食べる」事が出来るだろうし、眠りを安らかにするものでもあるので馴染みやすい筈だ。

 と言う事で念の為香りが広がり過ぎないように結界を張って、その中でお香を焚き始める。最初は少量で様子を見ていたのだが……よしよし、暴れるのではなくて、煙に視線を向けているな。目がどんなのかは見えないけど。

 その内封印魔法の箱の内側にべったりと張り付いて来たので、私とお香、お香と修神おさめがみの間に空気の流れは妨げない防御魔法を張り、封印魔法を解除する。


「うま! これ、うま!」

「……気に入って頂けたなら何よりです」

「うまー!」


 まぁ、解除した途端に防御魔法にべったり張り付き、ひゅごぉおお、という感じで香りというか煙を吸い込み始めるとは思わなかったが。もしかして純粋にお腹減ってたが故の暴挙って可能性があるのか?

 いやお腹減ってたからって他所の神の信者……でいいんだと思う。下手すれば神官相当だし。ここで働いてる職人の人達……に手を出しちゃいかんだろうよ。

 その辺分かってんのかねぇ? と思ったんだが、微妙に嫌な予感がするので、次のお香(チップタイプ)を取り出して、相変わらず黒子姿の修神おさめがみに見せる。


「素直に答えてくれたらこれをあげましょう」

「! なんだ! なにききたい!」


 素直~。と、若干ワタメミを思い出しつつ質問を重ねたところ、どうやらこの修神おさめがみ、大神に修行の許可を貰ったものの、そこからほぼ放置だったことが判明した。つまり修神おさめがみとして何をすればいいかっていうのが、ほとんど分かっていない。

 しかも元の種族が、こう、何というか、水子霊に近いっていうのかな。事故とか親の病気とか必要な栄養の量的な理由で生まれてこれなかった、生まれてもすぐ命を落としてしまった魂の集合体が、あの世に行く前にうっかり「祈願結晶」に触れてしまって修神おさめがみになったらしいんだ。

 まぁでも一応大神に認知(?)されている事と、修神おさめがみの本能と言うべきか、誰かの幸福の為に動くという行動指針はあった為、今までは大きな問題が起きてなかったらしい。


「うま! うまー!」

「誰かに教えてもらうべきところが抜け落ちてたんですかねぇ……ね、ナージュさん?」

〈俺に言うな、俺に。……まぁでも、クソガキじゃなくてただのガキだっつぅなら、年長者が面倒みるしかねぇか……〉


 ちなみにナージュが戻って来たのは、「祈願結晶」に触れた時の状態を聞き出した辺りだ。ははは、気配を隠すつもりも無かったんだろうが、私もそれなりに気配を察知できる方だからな。

 でっかいため息を吐いて、結界の外から霊体系の修神おさめがみを見るナージュ。そうだな。面倒をみるというか、もはや育成って気がするが。


〈ガキの面倒を見ると、後継者を育てて引退するんだなって見られるから嫌なんだよなぁ〉

「いっそ次々引き取って教育して、教育者の側面を神格に加えてしまえばいいのでは?」

〈バカ言え。俺は俺である限り現場で動く方だ〉

「現場であるなら余計に、後継者とは別で技術の伝承は必要でしょうに。一子相伝にこだわるタイプなら別ですけど、技術を広めるには人でも神でも育てるのが一番確実でしょうに」


 おいこら、目を逸らすな。顔を背けるな。見ないふりしてんじゃない。

 ほら。こっち見ろ。この初めてお腹いっぱい食べれたみたいなとっても満足&幸せオーラ出してる修神おさめがみをちゃんと見ろ。ほら。そして面倒を見るんだよ。ほら!

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