第2650話 73枚目:ステージ突入

 という訳で、最前線から次のステージに突入したところ、目の前にでっかい建物があった。いや、でかいな。そこそこでかめの駅ぐらいあるだろこれ。列車が通る場所の上にお店とかが並んでるタイプ。

 え、これが本体? と思っている間に、工場から聞こえる怒鳴り声。あー、これがあれだな。ナージュだな。うーんキレ散らかしている。しかし職人達の方も必死で弁明しているらしい声が聞こえている。

 いやぁ確かにこれは、まず様子を見に行っちゃうね。ただ。


「…………」


 魔視の強度をそこそこ高めにしてたんだよ。工場が本体ってマジかよって思ってたから。実際それはマジだったらしく、鉄っぽい色で工場本体は染まっていたんだ。これがナージュの力ね。覚えた。

 それはいいんだ。それはいいんだが……その脇に、工場本体と比べると小さいが、それでもそこそこの大きさがある建物があるんだよ。空気としては長屋に近く、玄関がいくつも並んでいる。職人の人達の生活スペースじゃないかな。

 で。魔視でしかみえない何かが、その玄関を順番に出たり入ったりしてるんだ。それもご丁寧に、唐草模様のほっかむりをして、唐草模様の布包みを背負って、それ以外は黒い布を被ったような。


「――[シールキューブ]」


 そう。端的に言うのであれば、泥棒のコスプレをした黒子だ。ただし魔視でしかみえないって時点でアウトだろう。と言う事で、最後の部屋から出てきた瞬間に封印である。

 元気な事に捕まった状態で暴れているから、普通の存在ではないのは確定。封印されてるのになんで元気に動けてんだろうなぁ? おかしいなぁ?

 一応工場の周りもぐるっと見て回って、他の痕跡や動いているものがいない事を確認。扉は閉まっているし鍵もかかっているので、中を確認するのはともかくとして。封印魔法の箱を抱えて工場の入口前に移動。いったん自分の横に降ろした。


「あのー、不審者を捕まえたんで確認して欲しいんですがー」


 ナージュにしか召喚者プレイヤーの姿は見えない。というのは知っていたので、工場の外からそんな声をかける。封印されている筈なのに元気に暴れる泥棒コス黒子が更に暴れているが、私の封印がその程度で破れる訳ないだろうが。

 声は無事に届いたらしく、ぴたっと怒鳴り声が止まった。かと思えばドダダダダと派手に走る音が聞こえて、バァン! と派手に扉が開く。


〈あぁ!? ……うわ、ほんとに不審者じゃねーか。そっちのは使いか。残念ながら俺は外に出られないから、それ運び込んでくれ〉

「はーい」


 全体連絡スレッドに書きこんであった通りの、「欲し歪める異界の偶王」の幻惑状態の姿を金髪と鉄色の目にしてあちこち汚れた作業服を着せた姿が顔を出す。

 最初はキレた状態だったが、まぁ、こんな露骨な不審者だとは思ってなかったんだろう。ちょっと顔が引きつっていた。かと思えばその隣にいる私を確認して何か納得し、さくっと中へご案内だ。話が早いというか分かりやすいというか。

 念の為封印魔法をもう1つ重ね掛けて、ひょいっと封印魔法の箱を抱えて奥へと小走りで進んでいくナージュを追いかける。私はもう名前を知っているからいいが、これ、初見だと「誰?」にならないだろうか。なったかもしれない。


〈おう、申し遅れたな。俺はナージュ。ここの、まぁ代表みたいなもんだ。あぁ、名乗んなくていいぜ。使いなら色々制限もあんだろ〉

「まぁそうですね。さっきの呼びかけも、あなた以外には聞こえていなかったようですし」


 うーん話が早い。バリバリ仕事をして力業で現場に残り続けるだけはある。なお、こうして移動している間、職人さんと思われる人達が変な物をみる目を封印魔法の箱に向けているので、たぶん箱だけがふわふわ浮いてナージュの後をついていっているように見えるんじゃないだろうか。

 ちなみに中身は元気に暴れている。だからなんで暴れられるんだろうな。封印魔法だぞ、これ。……岩山の中心に潜んでた奴も暴れてたって事を考えると、まぁそういう事なんだろうが。

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