第2649話 73枚目:情報確認

 さてクリアして戻って来た時点で午後のログインは残り40分。一旦戻ってきた人達が既に作業をしていた神殿建築に参加したものの、流石に時間切れでログアウトだ。

 そこからはいつも通りに夜のルーチンという名の日常を過ごし、いつもより早めに部屋に戻ってまず深呼吸。ログイン時間は残り4時間、今日は残り5時間弱。途中でログアウトして時間調節している余裕もない。

 1時間は連続でログインして、そこでログアウトしたら後はノンストップだ。「モンスターの『王』」の過去編はあと1体。そこから“呑”むと呼ばれる存在の過去編になるのか、それとも別ステージに飛ばされるかは不明だが……もう腹をくくるしかない。


「まずは、次のステージ。何が待ってるかとかあとどれくらいあるかとか色々あるけど、まず、目の前のステージをクリアしないと話にならない」


 よし! と気合を入れてログイン。とはいえ、既に神殿は出来ている。メーネのものかそれともエーレと合同なのかは分からないが。だから既に次のステージへの挑戦者はいる筈であり、ログイン時間の調節の仕方によっては既に突入し、クリアしている人もいるだろう。

 初めての事前情報を持っての突入になるかもしれない。と思いつつ、まずはざっと司令部更新の全体連絡スレッドと、クランメンバー専用掲示板を確認。


「……確かに時間はギリギリですけど、まさかこれが想定通りだったと……?」


 で、そこに、最低限のクリアと思われる人は戻ってきているが、その情報を持って最善かある程度以上のクリアをしたと思われる人は戻って来てない、って書かれてて、頭を抱えた。

 ちょっと待てや運営……。だ。なお最低限のクリアをした人によって神殿は建てられているので、そちらは問題ないらしい。まぁ再挑戦した人も戻ってきていないんだが。

 なおクランメンバー専用掲示板の方には、既に「第四候補」と「第二候補」が突入済みで戻ってきていないと書かれていた。そしてちょっと前に「第五候補」がこれから突入する旨を書き込んでいる。


「まぁ「第一候補」は最後に突入するとして、私も急ぎましょうか。しかし、流石に今回は情報無しだと一発クリアは難しかったかもしれませんね」


 とりあえず私もこれから突入する事を書き込み、インベントリの中身を確認し、装備を点検し、最前線へ移動する前にもう一度情報を確認する。

 全体連絡スレッドによれば、次のステージは想定通り「欲し歪める異界の偶王」の過去編。ただ髪の色は金色で目の色は鉄色と色彩が違う上に、服装もツナギのような作業服だったらしい。

 名前はというとナージュというらしいが、どうやら本体はアングルという工場そのものようだ。工場の名前と本神の名前を続けてアングルナージュ、これが歯車って意味になるらしい。


「……。となるとあの赤色と黒色、錆の色だったんでしょうか」


 なるほど? と思いつつ情報の続きを見ると、どうやら性格もさっぱりした親方という感じでギャップが酷いという感想が多かったとの事。まぁこっちの方が本来の性格だろうから、それはいいとして。

 問題としては、3日後に大神の神殿から使いが来るらしいのだが、それに合わせてナージュの本体である工場、その核になっている特別な歯車を新調する事になったものの、それを打ち合わせした筈なのに、工場の職人達からその記憶が綺麗さっぱり消えている、というものらしい。

 どうやらナージュは神として相当長生きしている部類らしく、今回の新調に関しても、引退なんかしないぞ! 元気だからほっとけ! と主張する為のものらしい。


「まさかのいくら言っても前線から下がらない元気じじい系ショタ」


 なお本体は工場だが、順番にあちこち修理するのはいつもの事で、長生きしている分だけ神としての本体、人間でいう魂をあっちにやったりこっちにやったりするのは得意との事。

 ただ核となる特別な歯車を作るには手間がかかり、熟練の職人達でも丸1日がかり、しかも綿密な打ち合わせをして、全員が仕事を理解してから取り掛かる事になるので、その打ち合わせと準備に丸1日かかる。

 で、打ち合わせと準備をしてさぁ作るぞ、となったら職人たちの記憶が消えていて、また打ち合わせからになるんだそうだ。だから、だいぶカリカリイライラしている状態でスタートする事になるらしい。


「……テセウスの船、と言うところですが、中身が「俺は俺だ」って言ってる以上は問題ないんでしょうね……」


 なお最低限のクリアとしては、職人達の代わりに召喚者プレイヤーがナージュの指示の下、十分な質を持つ歯車を作り上げればいいようだ。それでもしぶしぶ、時間が無いから妥協する、という態度だし、記憶が無くなる原因は不明なままとの事。

 そしてその時の報酬はその特別な歯車を作る時に使った素材であり、かなり性能は良いものの、最低限なのは分かっているので誰も使っていないらしい。まぁそうだな。絶対これよりいいものが手に入るもんな。

 と言う事は、まず職人達の記憶を取り戻す事。そしてその原因の排除。そして特別な歯車を、職人達の手によって作り上げる。これが真クリア条件だろうか。


「……。何か引っかかりますが、これ以上は挑んでみないと分かりませんね」


 とりあえず、ナージュの名前をうっかり呼ばないように気を付けよう。こちらは情報を知っていても、相手は初対面なんだから。

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