第2646話 73枚目:残敵掃討

 この町にある大神の神殿に戻ってみると、どうやら神託による儀式でほとんどの人が起きていたらしく、灯りがついていた。まだ夜明けまでは時間がある感じだが、まぁあんな音がしたらな。

 そもそも神託があったって時点で大騒ぎだし、それが名前の無い邪神の眷属に関わる事ならなお大騒ぎか。と、ちょっと冷静に自分が感覚麻痺している事を思い出してから考えると、何というか、それはそうだな。うん。

 さて。今私が手に持っているふわふわタオルの上には4つの神器があり、内3つには神が宿り、1つは大神の神器だ。だから隠すことは不可能だと判断して、さっと薬草を薬に加工する部屋に行って、そこの窓際の机に神器が乗ったタオルを置いてさっと部屋を出た。


「おぉ、早速大騒ぎに」


 まぁそれはそうなんだが。

 儀式をした直後だったからか、それともメーネあるいはエーレが再び神託を下したか、部屋から出て数秒後には部屋の扉が開かれ、神器が発見されたようだ。反応が早い。

 私は神殿を囲む壁の上まで下がって音で様子を窺っているんだが、もう大慌てだな。落ち着いてほしい。いや神器を運ぶのは丁重すぎるぐらいな様子なんだが、その周囲が大変な事になっている。


「さて、あとはどうしたものでしょうか」


 だがまぁたぶん、これでやるべき事は一通りできた筈だ。名前の無い邪神の眷属及びその契約者の撃破、捕まっていた神の救出、町の危機も脱したし、初手で領域スキルを展開して受け手の1割までとはいえリソースを配ったから、今にも息を引き取りそうな重傷の人は残っていないだろう。

 となると、後はクリア条件だが。ここまでの感じ、たぶん後は報酬だな。とはいえ、主体となるのはメーネ(スライム(神))だとしても、救出した神があと4柱いるし、大神の神器も回収しているからな。

 そしてそのメーネにしたって、ここからが忙しいだろう。神殿に戻るにしたって、所謂神域に当たるらしいあの地下の部屋があんな状態では……。


「……そう言えば、あそこに「マサーカーケッテ」みたいな奴が残っていたような」


 流石に町からあの木製パズルの蟻に合流した様子は無かった筈だ。というか神を捕まえて取り込む準備をして、何なら侵入者の撃退をしつつ場を塗り替えていたのだから、あれは独立している可能性が高いのでは?

 名前の無い邪神の眷属は既に撃破されているので、大丈夫だと思いたいところだが……一応見に行っておくか。大丈夫でも、ちょっとでも場を浄化しておけば助けになるだろうし。

 で、行ってみたら。


「あ、やっぱりダメでしたか。――[マジックアロー・レイン]」


 独立してたか、あるいは別個体だったかで、まだゾンビっぽい肉の奴が残ってた。とはいえ無関係ではなかったらしく、だいぶ弱っていたが。

 でも全て終わったと思って安心しきって戻って来たメーネぐらいだとやられてしまいそうなので、逃がさないように部屋全体に結界を張って閉じ込めた上で一掃しておく。勝って兜の緒を締めよというか、確認に来てよかったな。

 一応その後、元凶の女性こと神官長に収まっていた誰かの部屋も見に行ったが、こちらは力の残滓がすごいだけで何も無かった。魔視の強度を上げて確認したし、軽くあちこち浄化してみたが、特に何も無い。


「まぁこれ以上、完全に染め変えられた神器とか、それこそ邪神の神器とか、何か爆弾とか厄ネタとかが出てきても困るんですけど」


 その後地下の部屋に通じる通路もあちこち見て回ったが、こちらにも「マサーカーケッテ」あるいは木製パズルの蟻から生まれたらしいものは見当たらなかった。うん。流石にちゃんと全滅したか?

 とはいえ、自分の目で見て確認できる範囲には限りがある。それこそ明日いっぱいかかっても、例えば外の森に残党が潜んでいたら分からない。生き残っていたら移動するし。

 出来ればその辺の不安要素も全部潰しておきたい訳だが、さてどうしたものか。

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