第2645話 73枚目:主題達成

 男の子タイプの水精のような姿を取る、この町の海を司る神、エーレのいった手伝いというのは、私が通路にギリギリ入る大きさまで圧縮した暴走契約者入りの結界を押し込んだ後、文字通り水で押し流す事だった。

 とっさに私は後方、神器に宿って安静にしている神がいる場所に小さく防御を張ったんだが、それで正解だったらしい。


「危うく私まで流されるところだったんですけど?」

〈はっはっは! 悪りぃ! でも流されたところで何ともないだろ?〉

「じゃあ天井に凹みを作った事も怒らないで下さいね」

〈えっ。……お、おう〉


 マジで押し流されるかと思ったぞ。ギリギリ耐えたけど。

 さてそんな事があった後、部屋の端に置いてあった大神の神器らしい指輪がちかっと光った。気がした瞬間に、ドガァン!! とすさまじい音が外から響いて来たので、無事神罰は執行されたらしい。

 というか結構距離あった筈なのにこの音量って事は、町は大丈夫なんだろうか。まだ夜が明けて無い筈とはいえ、激しい戦闘が終わったばかりだ。というか、終わったという確信は無いだろう。そこにこの轟音だと、飛び起きた人は多いと思うんだが。


〈おっ、うちの奴らが来たな〉

〈は、はわわ、つ、使いさん、外に出ないと、あわわ〉

〈使いは普通の奴には見えないし、お前がここに居ても別にいーじゃん〉

〈よくないですよぅ!〉


 なんて思ったら大当たりだったらしく、ばたばたと上の神殿で人が動く気配はし始めた。ケラケラ笑うエーレには悪いが、私はスライム(神)もといメーネに賛成である。

 だって絶対話がややこしい事になるだろう。私は幽霊状態で見えないとはいえ、メーネがここにいるのはどう説明するつもりだ? いや素直に、名前の無い邪神の眷属と契約した奴を処してたっていえばいいんだろうが。

 だとしても、この町以外にいたらしい神及び神器と、大神の神器である指輪がある。これはどうするんだ。後の扱いとかも絶対もめるだろ。


〈そ、それにっ、この方々はどうするんですか!?〉

〈あー……じゃそれだけ頼むか。使いの。ちょっとこいつら大神の神殿まで運んでくれ〉

「うーん人使いが荒い。いいですけど」


 どうするんだ、と思いつつこの町の神2柱がわいわいやっているのを聞いていたら、こっちに話が振られた。まぁいいけど。今後どうするにしたって、大神の神殿に連れて行くのが一番安定だろうし。

 というか大神の神器である指輪に至っては、大神の神殿で無いと判断できないだろうしな。しかしあの元凶の女性、町の神を取り込むのは今回が初めてじゃなかったのか。

 にしても、流石に5柱は欲張り過ぎだろ。神器を身に着けて邪神の眷属と契約して、と色々ブーストはしていたんだろうが、だからと言って人の身によくまぁそこまで宿せたものだ。


「……。だからこそ、名前の無い邪神の眷属に目を付けられた、という可能性も、無くは無いでしょうけど」


 こうなってはどこからが本人の意思で、どこからが邪神の眷属にそそのかされたものかは分からない。何せ神罰で、たぶん跡形なく滅されただろうからな。

 まぁ生きていたとしても素直に教えてくれるとは思わないし、「抱き溶かす異界の絡王」になり果てた時の言動を思えば理解できるとも思えない。


「若干消化不良ですが、まぁ、解決はしました。理解できない相手というものも存在しますし、とりあえずは解決をもって良しとしましょう」


 とりあえずまずは、この神器とそこに宿った神について、どうやって大神の神殿の神官長に伝えるかだな。いくら私が見えて事情を理解できるとはいえ、神官見習いであるヘルタに丸投げはちょっと荷が重いだろうし。

 ほんと、神官長に私が見えたら話は早いんだけどな。そして使いだと解釈してくれると更に良い。……そういう意味だと、ここまでのステージはまぁまぁスムーズにいってた方なのか。なるほど。難易度が下がったのは気のせいだな。

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