第2636話 73枚目:保護成功
既に夕方と言えるほど日が落ちていたが、名前の無い邪神の眷属によって作り出されたのだろう「マサーカーケッテ」は、暗さなど関係ないとばかりに昼間と同じ調子で襲撃をかけてきていた。
一応スライム(神)の入った瓶には姿消しの魔法をかけてから大神の神殿に戻って来たが、怪我人の数が今日の朝と同じくらいまで増えている。もちろん中には怪我をしているだけで仮眠している人もいるんだろうが、これは、作った薬も使い切ってしまっただろうか。
「ステイですよこの町の神」
〈あれっ? 動物扱いされてます?〉
「おおかたこの状況を見て癒しに回ろうとしたんでしょうけど、今あなたがここをうろうろしていたらパニックが起こります。大人しくしてなさい」
〈はぅ〉
とか思っていたら、瓶からにゅるんっとスライム(神)が出て行こうとしたので、ガッと蓋を押さえて阻止する。ダメに決まってんだろ。推定元凶の女性が大神の神殿に乗り込んでくるかもしれないんだから、今は大人しく隠れとけ。いいな?
……それでももぞもぞと蓋の隙間から出ようとしていたので、あの地下の部屋で捕まっていた時と同じく、インベントリから出したロープで瓶をぐるぐる巻きにしておく。大人しくしとけっつってんだろ。
〈あっ、あっ、あのっ〉
「いいですか。あなたが捕まったらこの町は終わりなんですよ。分かってます?」
〈あわわ……いえ、けど、これだけこの町の人達が傷ついているのに〉
「何もするなと言っているんです。それが今のあなたの仕事です」
〈で、でも、あの〉
「いいから、大人しくしていてください。もっと言うなら息を殺して隠れておいてください。今からあれの源を探して封印してきますから」
〈あうぅ……〉
…………ほんっっっとに、よくここまで生き延びてこれたなこの神。一周回って感心してきたよ。
「ヘルタ、ヘルター。あっいた」
「ちょ、何よ! 他の人もいるんだから、あんまり話しかけないで……!」
「すみませんちょっと緊急で。これ、あなたの部屋に置いといていいですか?」
「は!? ……は!??」
〈今これって言いました!?〉
まぁ見た目は瓶詰の水だもんな。それもロープでぐるぐる巻きにされて、万が一にも蓋が開かないようにガッチリ固定されている。
ただそれでも中身がこの町の神だっていうのは分かったのか、今もまた洗い物をしていたヘルタの目が丸く見開かれてしまったが。そしてスライム(神)、あなたは黙って大人しくしていてくれ。
「大丈夫、今晩いっぱいはかかりませんから。遅くとも深夜には引き取りに来ます」
「えっ、ちょっ、ま……ごめん、何か急にお腹痛くなってきた!」
「大丈夫?」
「うんっ、たぶん、ちょっとだけよろしく!」
「服変えてくるぐらいはしていいよー」
言うだけ言って、私が瓶詰のスライム(神)を自分の部屋において来ようとしたのが分かったのだろう。ヘルタはちょっと妙な声を小声で上げた後、一緒に作業していた神官見習いの人に声をかけて、その場を離れた。
そのまま走って自分の部屋に飛び込んで扉を閉める。もちろん私が先行する形だ。ははは、ちゃんとヘルタの全速力と同じ速度だったろ?
「なんっ……! なん、何を、してるの!!?」
「救助です」
「きゅっ……!!??」
〈はい……その、今の格好はあれですけど、救助ですね……〉
「!!???」
まぁ、見た目誘拐だからな。あとこの実質拘束は仕方ないんだ。そうでないと、怪我人を治しにふらふら出歩くから。このスライム(神)。
ついでに、この神の神殿にこうなった事の元凶、もしくは元凶と繋がって協力体制にある人物が潜んでいて、その人物がスライム(神)を拘束してよからぬ事をしようとしていた、と説明する。
神殿の中に化け物と協力体制にある人物がいる。それを理解したヘルタの顔から一気に血の気が引いたが、まぁ、大丈夫だ。
「なので私はこれから、あの化け物の出現地点を探し出して、元になっている何かを封印してきます」
「…………、は?」
〈え、でも、あの、探す範囲が広いと、思うのですが……〉
「大丈夫です。何とでもなります。……まぁ多少森の面積は減るかもしれませんが」
〈えっ〉
ここから先は、私の得意分野だからな。
森の面積が何割か減る可能性はあるが、まぁ、名前の無い邪神の眷属をこのまま放置した場合の被害に比べればマシだろうし。
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