第2635話 73枚目:地下脱出

 ガシャァアアン!! と我ながら派手な音が響いたが、無事に瓶は割れたし中身の、やはり透明な核なしスライムだったらしい神は解放できた。いやぁ、嫌な予感して瓶をぶつける先にも土属性の壁系魔法で岩の壁を用意しておいて良かったよね。

 何故なら鎖をぶっちぎると同時に岩の壁に瓶が叩きつけられて割れたんだが、溝に詰まってた生物素材がぞわぞわ動き出したんだよ。まぁそりゃそうだろうとは思ったから、はわはわと解放されたことを確かめるような動きをしていた神を引っ掴み、私のインベントリから出した大きな瓶に突っ込んで、地下の部屋を飛び出した。

 流石にここから推定元凶の女性の私室に戻るのは宜しくないだろう。と言う事で、調べておいたうち一番町の外に近い場所へ通じている筈の通路を移動する。……ひゃぁぁああ、なんてか細く情けない悲鳴が聞こえていたのは気のせいだ。


「おっと断崖絶壁」

〈ぴゃぁああああああああ!?〉

「……あなた、水を司る神でしょう。何で海に怯えるんです」

〈いやあのその、水は水でも真水と浄水の神なので……〉


 で、飛び出した先は断崖絶壁の途中に開いた穴だったらしく、私は勢い余って外に飛び出したんだが、まぁ、私は飛べるし空気の足場も出せるので。瓶に入っていただけのスライム(神)が何故か息切れしていたが。スライムだろ。どこに肺があるんだよ。

 だがまぁそのままそこにいると、断崖絶壁の穴から私達を追いかけて生物素材のあれが飛び出してきそうだったので、空気の足場を蹴って町の上空へと移動する。再びひえぇぇぇとかいうか細い悲鳴が聞こえたが無視。

 だいぶ日も暮れてきた中で町を見下ろす位置に来て、ようやく私は息を吐いた。ついでにスライム(神)も瓶の中でぐったり伸びた。おい。神。しっかりしろ。


〈ひぇ、ひぇぇ……こ、こんなに驚いたのは、修神おさめがみの時に危うく食われてしまいそうになった時以来ですぅ……〉

「……よく神になれましたね?」

〈どういう意味ですか!?〉


 そりゃそういう意味に決まってんだろ。核なしスライムの癖に弱すぎないか。体積を全部端から削んなきゃいけない上に高い再生能力があるから、少しでも火力が足りなければ殺し切れない種族の癖に食われてしまいそうになるってちょっと待てと。


〈ちが、違いますぅ。元々水の精霊が多く生まれる、修神おさめがみを経ずに神になった主のいる湖の生まれだから、争いは苦手なんですぅ〉

「だからって食われそうになります? わざと飲み込まれて喉に張り付くだけで文字通り相手の息の根を止められるのに?」

〈なんて恐ろしい事を言うんですか!?〉

「いや、スライムという種族の基本戦略ですらあるでしょうに……」


 思ってたのとはかなり方向が斜めにズレてたが、それはそれでダメじゃねーか。マジでよく今まで無事だったなこの実質箱入りスライム(神)。付き人的な感じでお供がいたんだろうか。

 スライムの癖に、ひんひんと恐らく泣き始めてしまった瓶詰スライム(神)をみて若干途方に暮れる。とりあえず助けたはいいが、どうすればいいんだこれ。

 方向性的にはワタメミと似たようなものなんだろうが、立派な一人前の神がこれをやると、こう、色々庇いようがない気がするんだが。しかもヘルタの話からして、少なくともヘルタが生まれるより前からこの町にいるんだろうし。


「……とりあえず、真っ当を維持していたこの町の大神の神殿へ行きますが、いいですね?」

〈ひん……〉


 どっちだ。いいのか悪いのかどっちだ。返事はちゃんとしてほしい。というか目も涙腺も無いのにどうやって泣いてるんだ。

 ……まぁいいか。どっちにしろ、本物の神をいつまでも実質誘拐しておく訳にもいかないし。救助必須の要救助対象は助けられたんだから、大神の神殿に匿ってもらっている間に、森の奥を調べて名前の無い邪神の眷属を封印してこよう。そうしよう。

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