第2634話 73枚目:地下の部屋

 ところどころ分かれ道があったりしたが、どれも祭壇の真下にある空間に繋がっている通路で、他に部屋が無いというのは分かっているので無視して移動。

 町自体が断崖絶壁の上にあるからか結構深さがあった先で、ようやく焦げ付きのような色が薄れてきたのを見てほっとしたよ。このままずーっと焦げ付きのような色の中のままだったらどうしようと割と本気で思ったからな。

 そして実際、真上に当たるのだろう大きな祭壇があった部屋の倍ぐらい広い場所に辿り着き、そこで恐らくこの町にいるという神だろう、という存在を見つけたんだが。


「ガッツリ瓶に閉じ込められてるじゃないですかっ!!」


 どうしてこう嫌な予感ばっかりが当たるかなぁ……!!

 と言うのはともかく。その主に横方向に倍ほど広い部屋は、たぶん元はこう、この神が座す場所としてちゃんと整えられていたんだろう。水を司る神だけあって、水路のような溝が円形の模様を描くように彫られている。

 本来なら、この溝を通して神が水を循環させたり、町に届けたりしていたんだろう。配管のような穴も壁のあちこちに開いているし。



 のだが。現在その床には魔視では焦げ付きのような色をした何かにしかみえず、通常視界だとゾンビっぽい肉の塊と見える何かがギッチリと詰め込まれた上で、こちらは魔視と通常視界でさして差のない、黒いインクで禍々しい魔法陣が描かれていた。

 なおかつその中央では、インクと同じ黒い鎖が天井と床に打ち込まれて部屋の真ん中に伸び、私だとちょっと抱えるのに苦労するぐらいの大きさの瓶を縛り上げていた。瓶の蓋もインク及び鎖と同じ黒だ。

 そしてその瓶の中には、たぶんじたばたしてるんだろうなという気配のする、透明な水が詰まっている。水なのか核の無いタイプのスライムなのかは分からないが、恐らくあれが神の本体だ。



 うわぁ。と思いながら床に描かれている魔法陣を見る。が、私は魔法陣の解析は出来ない。ので、とりあえず魔法陣の全体が分かるようにスクリーンショットだけ撮っておく。司令部に渡せば、後続の召喚者プレイヤーが多少は楽になるだろう。

 で。と、部屋及び魔法陣の中心で捕まえられている、あるいは閉じ込められている神の様子を見に行く。うん。これは暴れてるな。ギリギリ水面が見えるぐらいきっちりサイズだが、その水面が勝手にちゃぽちゃぽしてるから。

 一方鎖と瓶の蓋はというと、魔視の強度を限界まで下げてみたところ、どうやらこれも生物素材っぽい。たぶん「マサーカーケッテ」と同じ素材だろう。提供元が一緒なんだろうから、それはそうなんだろうが。


「というか、この瓶本体も同じ素材だったところ、神が自力で浄化した感じの気配がしますね?」


 しかしガチガチに縛られてるな。鎖の数は上から3本下から2本の合計5本、瓶にまず縦に巻き付いてから横に巻き付き、それを鎖同士で繰り返しているからかなり頑丈そうだ。

 そんな状態なので、鎖をどうにかしないと蓋は絶対に開かない。一方瓶本体はというと、まぁこれも相当に丈夫なのだろう。普段なら手で持って千切ればいいだけか、それこそレイピアで細切れにすればいいんだが、今はそういう訳にも行かないし。


〈あ、あの!〉

「おや」

〈そこ、そこにいるのは使いの方ですね!? みえませんけど! あの、助けてほしいのですが!〉

「それはもちろんそのつもりですが、この鎖、千切っちゃって大丈夫なんですか?」

〈と、とにかくこの部屋から出られれば何とかしますので! 夜が、夜が迫ってるんです! 新月の夜が!〉


 あ、なるほどそこがタイムリミットなんだな。

 ……まぁなら仕方ないか。最悪、神を抱えて海の方か上空に逃げてしまえばいいんだし。


「今の状態だと力づくで壊すことになりますが、使わない方がいい属性とかありますか?」

〈えっ!? えっえっ、えっと、その、氷と熱すぎる火はその、避けて頂けるとぉ……〉

「分かりました」


 なら土属性魔法で鎖諸共瓶を叩き割る方向で行こう。しっかり魔力を込めて硬い岩にすれば、水が染み込むって事も無いだろうし。

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