第2630話 73枚目:捜索目標

 さて。そんな推測が出来てしまった以上、森全体が怪しく思えてくる訳だがともかく。洗い物を手伝い、籠をもって外に出て雑に群れを一掃、そして採取作業をして、帰りにまた雑に群れを一掃。これをあと2度ほど繰り返したところで、太陽がほぼ真上に上っていた。

 ここで神官もしくは神官見習いの1人が、籠いっぱいの薬草が増えている事に気付いて薬の作成が始まったので、採取作業は一旦止めておく。流石に作業している横で、いきなり薬草の籠が増えたらドッキリになっちゃうからな。

 同じく洗い物の方も大体落ち着いてきたようだ。まぁ怪我人が増えるペースは絶対に落ちているからな。何せ私が張った防御があるから。外に出ない限りは大丈夫だ。


「……この短い時間ですごい働いてるわね」

「全部必要な事でしょう?」

「……それはそうなんだけど」


 ヘルタには何だかすごい微妙というか、形容しがたい感情ごった煮な顔をされてしまったが、必要な事だったじゃないか。何なら薬草の採取と、その行き帰りの雑な一掃はまだ必要だろう。

 まぁ雑な一掃に関しては元を叩く方が優先かもしれないが、尽きる様子が無かったからな。そろそろ限界が見えていたところで少しは敵の圧を緩めておかないと、一気に瓦解しかねない。

 なおヘルタは現在洗い物をしている。1人で。どうやら他の人達は薬を作るのに回ったり、ようやく時間が出来たから洗った布類を干しに行ったりしているらしい。


「……ほんとに何者なの?」

「一言で言うと救援ですね」


 嘘は言っていないので、胡乱なものを見る目を向けないでほしい。

 しかし、ヘルタには私が見えている。と言う事はここまでの事からして、何らかの形で事態解決のキーとなる筈だ。他に私が見える人が見当たらない時点で、順当に行けば「抱き溶かす異界の絡王」の元になった誰かないし修神おさめがみ、という事になる訳なんだが……。

 ……ヘルタの髪は金髪だし、サラリとして癖の1つもないストレートで、目は翠色でぱっちりしている。ついでに言えば身長は私より少し高いぐらいだし、美人の分類には入るが、圧倒的なスレンダー型だ。後は外で動く事も多いらしく、相応に日焼けしている。


「そういえばヘルタ」

「何?」

「ここの神殿の関係者で青い髪と目をした人っています?」

「青い髪と目? いないけど」

「そうですか……まぁいないならいいです。期待薄でしたし」

「何? 探してるの?」

「優先度は低いですけどね」


 つまり、水色の波打つ長い髪、切れ長の濃い青色の目、美人の範囲でふくよかな体つきと透けてしまいそうに白い肌、という外見的特徴だった「抱き溶かす異界の絡王」とは、共通する要素が1つも無い。

 まぁ肌は日焼けのようなので、日の光に当たらなければ透けるような白さになる可能性も無くは無いが。ワタメミと白い石はそれぞれ完全に姿が変わっていたし、本体に寄る形だけの再現だったからあれだったのでともかくとしても、レーンズはそのままだったからな。

 その前提で考えると、ヘルタが「抱き溶かす異界の絡王」になる前の姿とは考えにくい。と言う事は、少なくとも他に「抱き溶かす異界の絡王」になる誰かというか修神おさめがみがどこかにいる筈なんだが。


「それはそれとして、ここは大神の神殿なんですよね?」

「そうよ」

「と言う事は、この辺って修神おさめがみか神はいないんですか?」

「いるわよ? もちろん軽々しくは会えない……けど、そう言えばあなたならそういうの無視できるのね」

「できますね」


 と言う事で聞いてみたら、良かった知っていた。ありがとう。本当にさくさく進んでいく。ありがとう。

 ヘルタ曰く、この町には結構前からずっと神がいるらしい。この町が断崖絶壁に面している上に川も無いのに水が使えるのは、その神のお陰なんだそうだ。お? 水系の神か? ビンゴの気配がするな?

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