第2631話 73枚目:目標発見

 ヘルタに聞いたこの町の神は、どうやら丸の形の中央に当たる場所にいるらしい。とはいえこの町は前方後円墳を縦に割って半分を断崖絶壁から落としたような形をしている。だから中央と言っても、円の中央ではない。

 変な形をしているなぁとは思うんだが、それは私が上から町全体を見れるからだろう。とりあえずその、この町の神がいる場所も防衛戦が行われていた場所の1つで私が防御を張っていたので、迷う事は無かった。

 こちらも神殿なのだが、形が違う。水の神だからかちょっとパルテノンっぽいんだよな。太い柱が一番外の壁代わりにずらっと並んでるところとか。分かりやすくていいんだけど。


「ん?」


 さて防御を張る時は上から動きを確認しただけだったので、地上に降りてしげしげと見ればまた変わってくる。大神の神殿は救護所として機能していたが、こちらはどうやらあの、触る事で流し台に水を湧かせていた石、あれを配ったり集めたりしているようだ。

 あの石は見た目では分からないが、湧かせる事が出来る水の量が決まっているのだろう。石が入った箱を持って奥に行く人と、外に出ていく人がいる。こちらにも神官がいるようだしある程度の治療もしているようだが、応急処置に留まっているようだ。

 ただ問題は、だな。その神殿のそこかしこに、森でも見たし「マサーカーケッテ」にも見える、焦げ付きのような色があるって事だ。それこそ本物の焦げ付きのように、柱の影や椅子の足、毛布の端などにこびりついている。


「神殿内部でこれとか、嫌な予感しかしませんねぇ……」


 観察しながらしばらく入口の所に突っ立ってみたが、どうやら私を見る事が出来る人はいないようだ。と言う事で、さっさと奥に進む事にする。扉はあるが、出入りが激しいから大体開けっ放しなんだよな。助かる。

 で、中に入ってみたんだが。どうやら奥に行くほど、焦げ付きのような色が増えていく方向がある。もちろんそちらを辿っていくんだが、どう見ても神殿の中央部に向かってるんだよな。

 これは、既に大分ヤバイのでは? と思った先で初めて閉まっている扉があった。この扉もだいぶ焦げ付きのような色に塗れているが、ここまでで一番大きな扉だ。


「礼拝堂か、あるいは何か儀式をする部屋でしょうか」


 なおしばらく待ってみると、例の水を湧かせる石が入った箱を持った神官さん達がやって来て部屋の中に入っていった。もちろん私もそれに便乗する。

 部屋の中は、私の予想を足して2で割ったようなものだった。つまり、祈る事で何か儀式をする部屋って事だ。まぁ神官さん達があの石の入った箱を持って大勢で来たって時点で大体分かってたけど。

 部屋の正面奥に大きな祭壇があり、その上に神官さん達が持ってきたのと同じ箱が並んでいる。そして祭壇の手前に膝をつき、祈りの姿勢を取っている人がいた。


「え」


 ……その髪は床について広がる程に長く、部屋に灯された光を波打つ部分で反射してきらきらと輝くようだった。神官さん達の先頭にいた人が声をかけると、立ち上がって振り返る。

 厚手の布が使われた神官服は、既製品らしくその美人の範囲でふくよかな体系を隠す役には立っていない。その袖から覗いた手や振り返って見えた顔まで、肌の色は透き通るような白。

 動きに合わせて流れた髪は水色で、神官さん達とその手にある箱を見てふわりと緩んだ目は、切れ長で、黒に見えるほど色の濃い青。


「ありがとうございます。祈りによる充填は終わりましたので、交換をお願いします」


 見た目だけなら完全に、「抱き溶かす異界の絡王」だ。間違いない。私以外にも、直接対峙した事がある召喚者プレイヤーなら全員同じ判断をするだろう。

 ただし。

 あからさまなキーマン、いや女性だからキーウーマンか? にもかかわらず。



 私が見えてないっぽいんだが、どういう事だ?

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