第2627話 73枚目:協力者

 どうやらこっそり洗い物を手伝ったかいがあったか、それとも元々そういうタイミングだったのか、そこからすぐに交代らしい人達が着て、ヘルタを含めた洗い物をしていた人達は神殿の奥側の建物へと移動して行った。

 私はヘルタに妙な物を見る目を向けられつつも彼女に付いていく。どうやら奥側の建物は神殿関係者の居住区になっているらしく、ヘルタを含むこの人達は、見習い神官という立場になるようだ。

 2人部屋で、ヘルタが話しかけていた人が相部屋になるようだったが、その人はぱっぱと服を着替えるとさっさと眠ってしまった。まだ日は高いが、もしかしたら夜を徹して働いていたのかもしれない。


「……で、あなたは何なのよ」

「休まなくていいんですが?」

「あなたが気になり過ぎて休むどころじゃないわよ」


 ごもっともな理由だったので、制限付きでこちらの世界に来た者です、と説明する。嘘は言っていない。何であんな妙な事をしていたのか、と聞かれたので、手を触ってみてほしいと言った。

 右手を出したので、ヘルタは握手をしようと思ったのだろう。ただししっかり幽霊状態は仕事をしていて、すかっと空気を握ってしまったが。


「!?」

「しーです、しー。相部屋の彼女が起きちゃいますよ」

「……っ!!」


 なおその後、無言で私の手を触るというか叩こうとして、すかすかすかっとなっていた。


「……幽霊?」

「に近いですが、生きてます」

「えぇ……?」


 でまぁ、私が物や人に触れない、というのをしっかり理解してもらった事で、あの妙な事をしていた理由も納得してくれたようだ。ついでに相部屋の人の反応から、私が見えているのはどうやら自分だけらしいというのも察してくれた。

 で、何の用なの? と聞かれたら、ここでの問題を解決するお手伝いに来ましたと答える。嘘は言っていない。まぁもちろん、私が見えたあなたは問題解決の鍵となる人物です、とまでは言わないが。

 それでもまだ私と言う存在を飲み込めないヘルタだったが、洗い物を手伝って(?)いたのは見えていた筈だ。なのでこれといって矛盾するところや疑わしいところは無かったのだろう。


「……。で?」

「で、とは」

「いやだって、あなたは問題を解決しに来たんでしょ。なのに誰にも見えないし触れない。それに声も聞こえないんじゃ、どうしようもないじゃない」

「まぁ上手い事制限のかかってない部分で動くだけですが」

「でも、私には見えてるし聞こえてるじゃない。なら、私が協力するのが道理だわ。で? 私は何をすればいいの?」


 ……おぉ。ちょっと感動だぞ。とても、ある意味初めてのとても真っ当な協力者だ。

 この非常時で自分のやる事だって山ほどあるだろうに、見習い神官って言うのもあるだろうが、なんて良い子なんだ。


「そうですね……。薬の備蓄がだいぶ減っているようですが、あれはどこで作っているものですか?」

「ここで私達が作っているものよ。だからたくさんあったの。といっても、あの化け物が来てから材料の薬草を取りに出れていないから、新しく作れないんだけど」

「つまり、薬草があれば薬を作る事が出来る?」

「出来るわ。……もしかして、取って来てくれるの?」

「流石に全く見たことが無い草は分からないので……薬草の見本とかあります?」

「ちょっと待って」


 おぉぉ……話が、話がとんとんと進む……。理解が早い協力者、すごい……。


「これ、見習いになった時に見せてもらう薬草の特徴。絵の上手い子なら絵を描くんだけど……」

「いえ、特徴が分かりやすく並んでいるので、私にとってはこっちの方が分かりやすいですね」


 と、非常にスムーズに薬草の情報を手に入れる事が出来た。すごい、すごいこう、物事がするするっと進む。すごい。語彙が無くなってしまう。


「ではこれとこれを集めてきたらいいんですね?」

「集めてきて、素材棚に入れてくれれば誰かが気が付くわ。もうここに「何かいる」っていうのは洗濯物で分かっているから今更だし、大丈夫」

「……。出来る限りこっそりしたつもりなんですが」

「あなたさては手加減が下手くそね? あんな新品みたいにしてバレない訳がないじゃない」


 ……最後にちょっと刺されてしまったが、まぁ、ド正論なので甘んじて受けるとして。

 とりあえずあれだな。ここと、まだ持ちこたえてるっていう他の拠点に例の「マサーカーケッテ」を通さない設定にした結界を張っていくとしよう。どうせバレてるみたいだし。

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