第2626話 73枚目:後方手伝い

 まだまだ戦闘が続く以上、怪我人を何とかした方がいい。しかし今の私は幽霊状態であり、こちらの世界の人や物に触れるのは難しい。いや魔法使えばいいだけなんだけど、ただでさえ限界ギリギリの最前線に余計な謎を増やすのは良くないから。

 と言う事でまずは薬や食料があるらしい倉庫を確認。食べ物は割と残っているが、薬の類がかなり減っている印象だな。棚がガラガラだ。まだいくらか残っているが、近く底をつくだろう。

 ついでにその薬を調べてみたが、質としてはフリアド基準で下の上ぐらいだった。思ったより低かったな。……いや、町を囲む壁が無かった。と言う事は平和な世界であり、普通の怪我に使うぶんならこれで十分なのだろう。


「しかしこうなると、下手に私の手持ちの薬を補充しておくという訳にも行きませんね」


 私基準の効果低めでも、フリアド基準だと絶対に上の中か上の上だからな。それ以上は秘薬とか呼ばれるし、効果が高すぎて使える相手が限られている為、専用装備ならぬ専用消耗品となっている。

 回復薬の基準が、私と竜族部隊の人達、そしてそれ以外のうちの子と召喚者プレイヤーで既にすごい差がついている。種族特性がステータスの暴力だから、まぁ当たり前と言えば当たり前なんだが。

 とりあえず薬については後で考えるとして、次に向かったのは洗い場だ。こちらでも人が忙しそうに、主に包帯をもって出入りを繰り返している。水は……あぁ、洗い場の縁にある石に触ったら、洗い場の中に水が湧いてくるのか。魔道具かな。


「まぁ間に合ってませんし、完全に綺麗になった訳でもないですね。あれだけの人数で回しているんですから、それはそうでしょうけど」


 で、今も数人がかりで頑張って包帯やさらし、中には当て布らしい血に染まった布の類を洗っているのだが、まぁ、洗うのは間に合っていない。何せこうしている間も、次々血や土埃で汚れた布類が運び込まれているからな。

 そして洗い上がったとされる布類も、もちろん干している時間なんて無いし、多少汚れが残っている。それでも固く絞って出来るだけ水気を切って巻いたり畳んだりして、またどこかへ持って行くのだ。

 しかし、人は多いがバタバタせわしなく、全体を把握している人はいないようだ。なのでこっそり、下手ながら気配消しと姿消しを、汚れた布類が集められた籠の1つにかけてと。


「[クリーン]」


 うん。私の魔法ならすっきり綺麗に新品の如く真っ白だな。さてこれを、洗い終わった場所へ運んでから魔法解除。


「ん?」

「どうしたの?」

「新品が紛れ込んでる」

「えぇ? そろそろ布が足りないからシーツを切ろうって……ほんとだ」

「シーツ切らなくていいならいいじゃない」

「そっか。じゃ運びましょ」


 流石にそこまで真っ白になると違和感を覚えられるようだが、まぁ、仕方ないな。それでも気にしないというか、気にしてられない状況なのは全くよろしくないんだが。

 と言う事で、そこからも特に汚れが酷そうな籠を選んで姿消しをかけては綺麗にして運ぶ。どうせまたすぐ汚れるんだろうが、布類は清潔な方がいいからな。

 それに洗い物を続ける人達も、もう洗い過ぎて手が真っ赤になっている。お湯が出るほど親切な仕様ではないらしく、そこまで寒い季節ではなさそうとはいえ、これだけ洗っていれば手も大変な事になるだろう。


「……あなた、さっきから何をしているの?」


 なので、洗い物を手伝いつつここの人達ぐらいは私の種族特性の効果を受けないかなーと思っていたら。

 驚いたことに、洗い物をしていたうちの1人が、まっすぐ私を見て話しかけてきていた。


「ヘルタ? どうしたの?」

「どうしたって、さっきから綺麗なドレスを着た女の子が、布をすごく綺麗にしているのよ。助かるけど、それならもっと堂々とやってほしいわ」

「……女の子?」

「そうよ。ほらここにいるじゃない」


 ヘルタというらしい彼女は、びしっと私を指差しているのだが……私は次の籠に魔法をかけたところだったので、手には何も持っていない。

 つまり幽霊状態の私は大半の人には見えない訳で、案の定、ヘルタに話しかけた人は哀れみを浮かべた。


「ヘルタ、あなた疲れてるのよ」

「幻覚だっていうの?」


 うん。まぁ。そう思われても仕方ないよな。

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