第2625話 73枚目:一旦一掃
地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったものだなぁ……なんて思いながら【調律領域】をOFFにする。いやまぁこの場合地獄を見るのは私が敵と認識した相手だけだから、本来の意味とは違うんだろうが。
とりあえず私の視力でみえる範囲には、あの分離と合体を繰り返す謎生物? のゾンビだったらしい焦げ付きのような色は残っていない。代わりに一面銀色だったが、それは【調律領域】の効果範囲だったので、私が消せばすぐ消える。
旗槍も旗部分を巻きつけてインベントリに戻せば、元通りだ。私の種族特性の範囲も広がるからな、旗槍を持っていると。
「流石にざわついてますが、倒れた人は……いますけど、疲労ですね」
問題は無いな。
攻撃が止んだとみて飛び出してった人達は、救助に行ったんだろうか。さっきも自分で動けないレベルの怪我人を運んで戻ってきていたし。流石に10日も戦っていて、一般人の避難が間に合ってないって事は無い筈なんだが。
もしくは物資の調達に出たのかもしれないが、ともあれ、だ。
「さて、こちらに来てから初めてのまともな戦闘というか、敵の討伐だった訳ですが……」
旗槍を入れる時に見えたんだよな。何か、ずらーっと見た事のない感じのアイテムが並んでるのが。
まぁそりゃ、流石にアレリーのところ程ではないが十分に大きな町だ。そのほぼ全体で戦闘が起こる程の数がいて、それを一掃したんだから、そりゃ相当な数を倒した事になっているだろう。
この場に残っている人達が怪我と疲れをおして崩れた壁を直したり周りにあったらしい建物を利用した壁を直したりしている間にチェックしてみたんだが、どうやらあの分離と合体を繰り返す謎生物のゾンビ、ちゃんと名前があったらしい。
「……「マサーカーケッテ」? いやまぁ名前はともかく、素材がこれは、もしかして人工物……?」
ちょっと意味まではとっさに出てこないが、たぶんこれドイツ語じゃないだろうか。ち、ドイツ語はファンタジー好きのたしなみだっていうのに受験と大学勉強でだいぶなまったな。
名前の意味は司令部に聞けば分かるとして、問題はその名前の後についている素材の種類だ。マサーカーケッテの核、というのはまぁスライムとかでもあり得るんだが、合成皮とか眼晶石とか、どっちかっていうと「第四候補」の使い魔に使われてる感じの種類がずらずら並んでるんだよな。
と言う事は、あれはゾンビではなく最初からこういう感じだったという事だろうか。いやまぁくっついたり離れたりして大きさを自由自在に変える上にダメージコントロールが上手く、群れ全体で戦略的に行動する野生動物もしくはモンスターって何だよって話なんだが。
「…………。いなくはないっていうのが頭の痛いところですが」
そうなんだよなぁ。いなくはないんだよなぁ。ある程度頭のある群体生物もしくは群れで行動する生き物。蜂とか蟻とかそれこそスライムとか。
となると、問答無用で一掃せずにちゃんと攻撃して、どういう構造をしているのか調べた方が良かったか。とも思ったが、いくらもしない内に遠くの方で再び戦闘の音が聞こえ始めた。
耳を澄ませると慌てて逃げ戻ってくる音と、外に出るな、という警告の声が聞こえてくる。私はこの町の中に合わせて【調律領域】を展開した。なので、町の外にまだ残っていたんだろう。
「とはいえ、物理的に触れられないと解体も何もないんですが。魔法なら影響を与えられるのが分かっている以上、どうにか魔法で上手い事できないものでしょうか」
まぁとりあえず、お代わりに関しては心配いらないようだ。現地の人達にとっては、一度一掃された筈なのにまだまだ残っている、って絶望的な事実になってしまうのだが。
ただこのまま飛び出して様子を見に行っても、後が心配というか……正直、怪我人ぐらいはどうにかしておいた方がいいよな。看護する人達も休ませた方がいいだろうし。
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