第2620話 73枚目:覚悟結果

 さて、ワタメミが覚悟を決めた。この場の主役である修神おさめがみが戦う決断を下したのだから、私は村とワタメミを守る事を継続しつつその補助をするだけである。

 ……と思って、実際その通りに行動したんだが。何故かワタメミが最初に望んだのは、空に浮かぶ巨大な足場と、足場及び自分の防衛だった。

 まぁ対案も対策もない私はその通りに、空気の足場に土属性の壁系魔法を薄く広くしたものを乗せた上で周囲に灯り付きの柵を設置し、その下に潜り込む形で防衛を始めたのだが。


「やっぱり習得していましたか……」


 正直、私の出番はワタメミと村を守り、ワタメミの説得が完了したところまでだった。いやまぁ一応足場、というか、舞台だな。これを作って維持するのも含むだろうが。

 私は直接見ている訳では無いんだが、しっかり鈴が鳴る音と、ワタメミがステップを踏む音は聞こえている。同時に森全体を視界に収めた状態で、魔視によって不思議な波紋が広がり、森を塗り潰していた力場がみるみる薄まっていっているのもみえている。

 まぁそりゃそうだよな。だって踊りを頑張って覚えたと言っていたんだから。修神おさめがみが習得する踊りが、他者を楽しませる為のものだけである筈がない。浄化の舞いに類するものも習得していて当然だろう。


「あーあーのたうち回ってますね。同情はしませんけど」


 そしてどうやらあの、イゴールだったか。なんか違う気がするがともかく。この森をここまで異形にした犯人は、鈴の音が届き、魔視視点における周りの色が薄くなるたびに、何か大きなものに踏まれるか弾き飛ばされたような動きをしていた。

 まぁそうだな。修神おさめがみとただ契約しただけの人間では格が違う。勝てる訳がないんだよ。少なくとも、正面からの出力勝負では絶対に。だからこそこう、村人諸共弱らせようとしたんだろうけど。

 猫のおもちゃになった鼠のような有様は哀れと思うが、自業自得でもあるのでそれ以上の感想は無い。というかそれでもまだもがいているんだが、いっそ気絶するかトドメを刺された方が楽かもしれないな。


「と。……あぁ、そうですね。あの魔法は外部と内部を遮断する力が強い。だから選んだのですが」


 さてそうこうしている内に、イ……推定邪神の眷属の契約者は森の浅いところで地面にめり込む事で動かなくなり、私の設置した魔法にまでワタメミの浄化が届いたようだ。

 だがまぁ緊急時で詠唱なしとはいえ、私のステータスで設置した魔法だ。流石に一発で抜かれるという事は無かった。ただ、今回は内部にも力が届いた方がいい。と言う事で、魔法を解除する。

 ……。うん。解除した直後にワタメミの浄化が届いて村全体に行き渡り、途中で追跡を諦めた1人を含む数名が地面に叩きつけられている。たぶんだが、ワタメミをよろしくない目で見たり、目を逸らしたりして、かつスキルの付与まで状態が進んでいた人ではないだろうか。


「まぁあのスキルの付与が名前の無い邪神かその眷属の力であるなら、それを受け入れたって事になるんでしょうし」


 うん。他の村人は驚いて助け起こそうとしているが、ワタメミの浄化の力が届くたびに地面にめり込んでいっている。たぶんその内諦めるしかないだろう。まぁ、事情を説明すればきっと分かってくれる筈だ。

 流石に邪神相手、それも名前の無い邪神はな。ちょっとな。そうと知らなくてもそれを受け入れるのは、うん。まぁ、まずアウトだ。ワタメミの浄化の力でトドメを刺されてる方がマシかもしれないまである。

 一応そういう様子も見つつ、強度を上げた魔視で、セピア調の色が残っている部分が無いか探しているんだが、とりあえず大部分は通常の色に戻っているな。あと残っているのは


「……しぶといですね。まぁ、動く気力も残っていないようですが」


 もしかしたら契約は契約でも、名前の無い邪神の眷属を体に宿すとかそういう方向だったのかもしれない、契約者だ。

 とはいえぴくりとも動かなくなっているし、色(邪神の力)が周りに伝わっていく様子も無いので、封印して終わりだな。たぶん。

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