第2609話 73枚目:次のステージ

 タイマーで30分後、再ログイン。冷静に考えれば加速状態でのチャレンジは1度が最大2日で、リアル1時間が3日になる加速倍率なんだから、それこそ何度も失敗しない限りリセットしなくても大丈夫なんだが……まぁ、一応だ。

 今の所私は2連続で最高評価クリアをしているが、いつまでそれが続けられるかは分からないからな。流石に失敗して他の人と合流するのが前提になるって事は無い、と思いたいが、午後はまだ余裕があるのは確かだ。夜になったらログアウトしている時間も含めてギリギリだけど。

 で、ログインして情報を確認してからちょっと考える。それはさっきの報酬である白い石だ。これをここで加工するか、それともそのままインベントリに入れておくかだな。


「……。加工しておきたい、というのが正直なところですが」


 ただ、今回の時間加速は倍率が高い。リアル換算驚きの72倍だからな。内部時間からしても18倍という破格さだ。つまり通常空間で加工に2時間かけたとして、加速状態では1日半が経過する。そう。私のクリアタイムぐらいが経過する訳だ。

 なのでこの悩んでいる時間ももったいないと思う部分がある訳だが、そこは何とか頭を使う方に回し、考える事しばらく。


「……持って、行きましょう。加速状態で加工するタイミングがあればよし。それでなくても最初に貰った加護が大活躍した以上、これも後のステージで必要になる可能性だってありますし……」


 もちろん必須ではないだろう。だが使ったら大幅な時間の短縮になったり、必要な手順がざっくりカットされたりするかもしれない。今何より大事なのは時間なのだから、時間を短縮できそうなものは全部用意して行った方がいいだろう。

 ただそれでもこれを使うのは最終手段にしたいので、通常の建材も持って行くが。前回消費が少なかったからな。生のセージの葉ぐらいじゃないか? あ、ちょっとお茶を出したりお札を使ったりもしたか。

 そういう意味でも何が必要になるか分からないんだよなーと思いつつ必要そうなものを倉庫からインベントリに放り込み、最前線へと移動。悩んでいる時間はともかく、ログアウト制限の間に神殿の建築予定時間は過ぎている。だから最前線の「家」から突入すれば、次のステージに行ける筈だ。


「流石にまだ最新ステージのクリア者はいませんか」

「そうですね。もうしばらく待ちますか?」

「いえ、突入します。最新にはならないでしょうけど、今の所最善手を取れているようですし」


 と言う会話をしたものの、大半のベテラン勢は「拉ぎ停める異界の塞王」の過去編ことアレリーと岩山の神のステージをやり直しているらしい。……まぁ、それはそうだな。報酬である白い石の大きさが、あそこまで変わると、うん。

 私は私でたぶんあれが最高評価クリアなので、次のステージへ突入だ。もしこれが「モンスターの『王』」としての登場順と同じなのであれば、次は恐らく……。


「……最初の寒村ほどではないですけど、田舎っぽい場所ですね」


 時代は不明だから「モンスターの『王』」の過去編同士の時系列は分からないが、まぁそれは大して重要じゃないので横に置くとする。

 で、現在私は割と人の手が入った森の中にいるんだが、人が踏み固めて出来たらしい道の先にそこそこの集落があるのが見えているし、何ならそこから賑やかな音楽と笑い声が聞こえてきている。

 後ろ、集落と反対側の森を振り返っても……まぁ、迷子になる気配しかしないな。なので素直に集落の方へ移動だ。


「あ、今回も幽霊状態なんですね」


 ここまで来ると、最初のステージが例外だったって気すらしてきたな。この後が分からないからあれだが。

 まぁしっかり閉められた村の門を乗り越えたところで、門の脇で寝ている村人がいたのだが、揺り起こそうとして手がすり抜けたのはともかく。音の聞こえる方向、村の中心部に移動する。

 祭りでもやっているのかと思ったんだが、違うようだ。どちらかというと見世物の類らしく、村人が中心の広場に集まって、地面に座って何かを見ている。そしてその視線の集まる先では、1人の少女が踊りを披露していた。



 鮮やかな赤毛を尻尾のように三つ編みにして、同じく赤い丸い目を大きく開き、複雑な模様と色味で多種多様な生物が刺繍された白地の布を羽織るように、その先端の緑色の鈴を鳴らして踊っている。

 状況だけ見ればアイドルのライブに近いかもしれないそれは、けれど、村人も踊る少女もかなり頬がこけている事から、かなりギリギリの状態で行われたものなのだろう事が分かった。

 恐らく栄養状態としては、レーンズの時と同じく限界。だが今の私は幽霊状態であり、インベントリから出したものを調理する事は出来ても、その姿を見せる事は出来ない。



 いやまぁ前回の幽霊状態の時でも、占い師さんに生のセージの葉を渡したりお茶を渡したりはしたから、こっちが見えている相手なら物の受け渡しが出来るのは分かっているんだが。

 問題は、踊っている少女含めて、誰も私に気付いてないっぽい、って事なんだよな。

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