第2599話 73枚目:ラスト厄介

 正直、今すぐお屋敷に取って返して、占い師さんにチクってやろうかとも思った。が、ギリギリ踏み止まったのは、それをやってもこの現場監督さん本人が納得しないだろうなと思ったからだ。

 それにこういう無茶な条件を吹っかけてくる相手の場合、少々の屁理屈では絶対に認めようとしないだろう。正面から、無茶な条件を完璧に満たして、ぐうの音も出ないようにしないとダメだ。後々の結婚生活がギクシャクするだろうし。

 しかしこんなところで思わぬ障害が……と思ったが、そうだな。書類選考で8割落とされてるって時点で察するべきだった。だって、少なくともこの街まで来れるだけの準備を整えられる人間しか、書類選考は受けられないのだから。


「色の付いたガラスを溶かしてかけるって方法も聞いたが、ダメだった」

「石自体は焼いても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だが、燃やしても冷やしても色は変わらないぞ。脆くなって砕きやすくはなるが」


 と言う事で、まずは現場監督さんがどういう風に試行錯誤したのかを見せてもらったが、まぁ古今東西あらゆる染色の方法を試して惨敗した、という結論が良く分かる状態だった。これはひどい。

 釉薬もダメとは思わなかったな。だが現場監督さんはその結果を受けて、他の素材だったらダメらしい、っていうのは確信したようだ。強いな。愛か。愛の力か。

 まぁ元々、白い岩山の石に色を付ける方法っていうのはこの街の職人全体が試行錯誤しているものだ。大半は職人仲間や親とかその親が試した結果らしいし、他の素材だとダメだっていうのは、この街の職人なら大体誰でも分かる事らしいんだが。


「細かく砕いて水と混ぜる。粉を焼いてさらに細かくする。油で練って固める。粉で石の表面をこする。色々やってはみたが……」

「よく心が折れませんでしたね」

「……親父の親父の、そのまた親父の頃からの悲願だ。諦められるかよ」

「色を付ける方法を見つけないと、アレリーと結婚できませんしね」

「ばっ、おま……!」


 先祖から受け取ったバトンだっていうのもあるが、愛だなぁ。耳まで真っ赤になってるぞ。

 さてもはや総当たりで思いついたことは何でもやってみる状態になっているが、私には【鑑定☆☆】がある。情報は力だからな。流石に次の限界突破はいつになるか分からないが、私のステータスがあれば、今の段階で出る情報は大体出て来る筈だ。

 と言う事で、白い石やその粉、その粉を加工しようとしたものに対して、片っ端から【鑑定☆☆】を発動していく。うん。魔法とかと一緒で、発動自体は問題ないな。


「……え」

「おい、どうした」


 なんだが。


「色彩固定の、加護……?」

「……、は?」


 なんか……なんか、見えた範囲の石とか粉とか、何ならまだ未加工の石材や石の欠片まで、全部残らず、そんな文字が、書いてあるんだが。

 え? 色彩固定の加護、色彩固定? って事は、これ、神の力で「絶対に白いまま」になって、る?

 いや待て落ち着けまだ慌てる時間じゃない。カバーさんに教えてもらったテクニックを思い出せ。そう、【鑑定☆☆】の画面に出てきた文字に対して、更に【鑑定☆☆】!


[付与効果:色彩固定の加護

説明:色彩が固定される

加護元:白彩岩山の神(2代目)]


 ……。

 …………。


「えぇ……」

「待て。何が分かったんだ。何があった。……黙るなよ。そんなにヤバイものが見つかったのか!?」


 どう……いや、えぇ……?

 現場監督さんが慌てて詰め寄ってくるが、ちょっと待ってほしい。流石に私もキャパオーバーだ。ちょっと、情報量が多い。

 白彩岩山の神はあの岩山の神でいいとして、2代目ってなんだ。いや今回の件で力尽きた、アレリーの家系において4代目の時に代替わりした神って事なんだろうけど。

 え? ちょっと待って、この白い色、まさか、もしかして、この街と何らかの契約で固定されてたって、事……?

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