第2597話 73枚目:捜索開始

 アレリーがどれだけ婿候補と顔合わせをしても頷かないのは、その相手が分かっているから。すなわち男の方が覚悟を決めれば全て丸く収まる。そこまで説明されて私に出された指示は、意外な事にその男を特定する事だった。

 この街の関係者であり、少なくともアレリーの婿探しが始まる前から住んでいる住民なのは間違いない。と言う事は街の住民なら大体相手に予想がついている筈なので、私が現在幽霊状態で普通は見えないのを逆手にとって、情報収集をしてこい、との事だった。

 なるほどそれなら行ってきまーす。と、夜中にもかかわらず騒がしさが収まらない街に繰り出したのだが、ここでちょっとシンキングタイムである。


「メタ読みですけど、私が見えたっていうのはもうそこにフラグがあるって事なのでは?」


 そう。初手で石切り場に行き、洞窟を見つけて中に入って、元凶を封印して出てきた時に遭遇した、あの現場監督さんだ。

 あの人は体質のようなものだと言っていたが、アレリーは代々神に仕える一族でもある。その運命の相手なのだから、特殊能力を持っている方が自然だろう。

 それに、幽霊を見かけては死んでいる事を指摘して成仏させていたと言っていた。すなわち、この辺の問題をそっと解決していた訳だ。それも恐らく、本来なら神がやるべき部分に軽くだが踏み込んで。


「そんな気がしてきましたね。問題は、あの人は日替わりの組のまとめ役であり、今日のお仕事が終わった以上は家に帰っている筈で、その家がどこだか分からない事ですが」


 まぁ占い師さん曰く、岩山の方向に相手がいるのが分かった時点で、石切り場の関係者に相手がいる可能性は上がっていたらしい。そして石切り場の関係者は、お屋敷から見て岩山の方向のエリアに住んでいるのが普通なようだ。

 石切り場の関係者は、大体の場合が切り出した石を加工する副業をしているという話も聞いた。あの白い石、断熱性能が高いだけではなく摩耗にも打撃にも強く、水も染み込まないとかなり良い石材らしい。

 もちろん丈夫で質が良い分だけ加工するには技術が必要になる訳だが、アレリーで7代目というだけあって、この街の職人ならスムーズに切り出せるし加工出来るようだ。


「まぁその性能が災いしてか、色を付ける事も出来ないようですが」


 水だけではなく、絵の具や染料も弾いちゃうんだってさ。加工する時に出た粉すら色がつかないから、白いままで使うしかないようだ。

 ここでちょっと思う所はあったんだが、非常に丈夫で白く美しい、って方向で売っているらしい。実際、橋とかに使えば長い事使える良いものになるらしく、それで街は豊かになっているようだ。

 とはいえ、長く使える良いものなのはいいし、決して痛まない訳でもないから交換はする。安定収入になるにはなるが、やっぱり同じもので変わりがないと、相応の競争相手が出てくるものだ。


「だから何とか色鮮やかに出来ないかと工夫している職人は、特に古株の住民に多い……あ、この辺ですね」


 そしてそういう職人、石切り場で働けるのは若い世代だけなので、石切りを引退してから加工に携わるようになった人達が住んでいるのが、お屋敷から見て石切り場の方向にあるエリアだ。

 だからアレリーの運命の相手は、石切り場及び石加工の職人の関係者で間違いない。ここまでは占い師さんも分かっていたのだが、その特定をする前に弟子占い師だったアレに、名前の無い邪神の力という毒を盛られて動けなくなったとの事。

 さてどこから見て回ろうか、と、こちらも混乱があったが一応落ち着いた、という感じのざわめきが残る街角を歩いていく。その前に、ぬっと立ち塞がる影があった。


「あ、どうも。今朝ぶりです」

「……今度は何の用だ」


 やっぱりなんかフラグがありそうだなぁ。と思いながら挨拶し、ものすごく苦々しく低い声で唸られたのは、まさに探していた、ガタイの良い現場監督さんだった。

 この人なんじゃないかなぁ。神が後押しするっていうんなら、私が見えてるって時点でそういう支援があってもおかしくないし。幽霊が見えるって体質が、アレリーと出会って以降の話だったら、もう確定でいいと思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る