第2596話 73枚目:残った問題
「弟子の条件ってなんかあります?」
「神の力を感じる感覚が必須だね。後は素直で健康で若くて、欲を言えば血筋のしがらみがないなら最高だよ」
「……。親戚に
「なんだって?」
と、新しい弟子候補に、人工湖にいた彼を推薦したりもしたが、そうやって待っている間に2階に行った兵士の人達が戻って来た。顔面蒼白になっているが、それでも気をしっかり持って戻ってこれたのだから、優秀な人達だな。
そんな彼らが2階で見たのは、まだ新鮮な色をした何らかの肉が、アレリーの部屋の前を中心として左右の部屋に入り込む形で広がっている様子だったそうだ。……何らかのっていうか、たぶん、人間の、だろうけど。
ただしその肉は、引き延ばされてから押し潰されたような状態になっていたらしい。潰れて破裂していたって事か。うーん酷い状態だ。
「そういえば、街を覆っていた幻の炎ってなんだったんです?」
「さてねぇ。何でも水が燃え始めたとか言ってるらしいが、水が燃える訳ないだろうに」
「……あー」
「何だい使いの娘。心当たりがあるなら吐きな」
ほんと遠慮とか容赦しないなこの占い師さん。それぐらいでないと大神の高位神官なんて勤められないのかも知れないけど。
とりあえず、水を生み出して人工湖に補給する魔道具に、やっぱり名前の無い邪神の眷属だったらしい奴の力がべったりくっついているものが混ざっていた事を話す。午前中の中ほどで立ち寄って、その時点で故障中と偽ってもらった事もだ。
もちろんそれをしてくれたのは推薦した元婿候補の彼だったので、どうやら占い師さん的には株が上がったらしい。良かったな。
「後は騒ぎに乗じて、外から来て諦め悪く留まってたうちの一部が暴れ出したらしいが、あの火が偽物だと分かってしまえばなんて事はない。もう取り押さえられたそうだよ」
「なら安心ですね」
みたいな事をしているうちに、いつの間にか夜中近くになっていたらしい。アレリーは時間が時間なので、本来は客室として使う場所の1つに移動して眠っている。……まぁ、あの部屋に戻る訳にはいかないからな。壁に罅が入ってるし、その前が大惨事だから。
ただ。アレリーは私がいるこの部屋を離れたというか、私はアレリーを送って寝付くまで見守って、そこからまたこっちに戻って来た。何故かって言うと。
「で、やっぱりこの石が次代の石山の神で確定なんですか?」
「そうだよ。まぁまだ大神の許可が出ていない成りたてだし、許可を出すのは次の世代の神官だからね。しばらくかかるよ」
この石こと、アレリーが拾って持ち歩き続けていた
アレリーの安全はもう確保されたと言っていい。だから私はどちらにつくか考えて、占い師さんと白い石が揃っている部屋に戻って来たのだが。
「さて、使いの娘。どうせいるならもう一働きしてもらおうか」
「全力で使い倒してくるじゃないですか。いいですけど」
気のせいかどんどん元気になってる占い師さんに振られた次の仕事は、アレリーの婿探しだった。……それならもうすでに、アレリーの父親がこれでもかと盛大にやっているのでは?
と思ったんだが、違うようだ。何故なら占い師さんによれば、アレリーの伴侶となる相手は既に占われており、石山の方向にいるのが分かっているとの事。ただし、その方向にいる集落の男性は、もうとっくに占いが及ぶ範囲の外まで集めきってしまったらしい。
占いによって分かったアレリーの婿というのは、少なくともアレリーへ敬愛をもって接し、生涯に渡って大事にしてくれる男性で、アレリーの方も同じかそれ以上の愛を返す相手なのだそうだ。
「運命の相手とかそういう感じですか?」
「まぁ、そういう風に呼ぶやつもいるね。魂が惹かれ合うのを、神が後押しするのさ」
そういう相手なので、会えば分かるというか、出会った瞬間にお互い一目惚れというのも珍しくない、と占い師さんはいう。ただ問題は、そんな相手にも関わらず、アレリーの反応に掠りもしないのが何年も続いてるって事だ。
と言う事は、外ではなく街の中にその相手がいる筈なのだが、それなら既に出会っていてもおかしくないとの事。問題は、既に出会っているなら惹かれ合っている筈であり、ここまで大々的にアレリーの婿探しをしているのに、名乗り出ないって事だ。
「なんで名乗り出ないのが問題なんです?」
「バカをお言い。決して譲れない愛を抱く相手が他の相手を選ぶかもしれないなんて状況、耐えられる訳がないんだよ。……普通はね」
「つまり、尋常ではない忍耐力を持っている上に自信が無いか、もしくは恋を通り越しちゃって遠くで幸せを願ってる状態に入ってると」
「早い話が、男の方がヘタレてるのさ」
わぁ直球。
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