第2590話 73枚目:1日の終わり

 まぁ屋敷を回ると言っても、私がお屋敷をうろうろ探検している間におやつの時間を過ぎている。ここから大きくは動けないし、何より問題の弟子占い師が部屋に戻ってくるんだそうだ。

 別に私は戦ってもいいんだが、占い師さんはもうしばらく泳がせるつもりらしい。


「ところで、使いの娘。次代の神がどこにいるかは知っているね?」

「まぁ、当たりはついてます」

「なら良し。……流石代々神を祀る一族と言うべきか、お姫様は守るべきものを違えちゃいない。なら問題は、周囲だからね。今夜当主に話をつけておくから、明日まで守ってやりな」


 と言う事で、私は一旦占い師さんの部屋を出て、アレリーの方へ合流する。ここから行動するとまず間違いなく日が暮れてしまうって事で、婿候補との面談も終わったようだ。

 お茶を運んでいるメイドさんの後について行ったらアレリーの部屋に辿り着いたので、私を見つけて顔を輝かせたアレリーに、唇に指を立てるジェスチャーをしておく。にこっと笑ってメイドさんに視線を戻していたので、内緒、の意図は伝わったようだ。

 アレリーが飲んでいるお茶と添えられたお茶菓子も一応魔視でみてみたが、こちらは普通のものだった。メイドさんの方にそこそこ油の浮いた黒っぽい泥のような色がついていたから大丈夫かと思ったんだが。


「(いや、これ修神おさめがみが浄化してるのか)」


 どうやらやるべき事はやっていたらしい。むしろ、だからこそアレリーが無事だった、というべきか。何しろ、水にまで影響が出ているのは確かなんだし。

 しかし守ってやりなと言われたが、もしかしたら今晩何か起こるんだろうか? 特に占いをした様子は無かったが……いや、あれか。生のセージを燃やして煙で浄化していた時。精神統一に近い効果があったんだとしたら、何か閃いていてもおかしくないか。

 まぁ言われんでも守るけど。何しろアレリーに何かあったら、次代の白い岩山の神となる白い石が闇堕ちしてしまう。それを防ぐ為に来てるんだから、アレリーの無事は絶対条件だ。


「(とはいえ、アレリーだけ守ってもダメそうな気配がするから、結局全部守る事になるんだろうな。事によったら、元凶の処し方もちょっと考えないとまずそうだし)」


 なお、一番厄介そうな先代の岩山の神を取り込もうとしていた何かは、既に厳重に封印魔法を重ね掛けて私のポケットの中である。なので、一番最悪の事態にはならないだろう。少なくとも、岩山自体の汚染は進まないんだし。

 とはいえ、弟子占い師の正体次第では、直接修神おさめがみで次代の岩山の神である白い石を狙って来るって事もありうるし、油断はしないんだけどな。だって、こっちが力を押さえているだけの本体って可能性があるから。

 アレリーの方も、周りに人がいる状態で、周囲から視線を向けられる状態で私と話そうとはしなかったので、比較的平和に夕食まで時間が過ぎて行った。


「……あら? 何かしら」


 で、大変豊かな街の代表を務める一族である、という事を示す形になる、湯船による入浴が終わった後で、ようやく寝室で(対外的には)1人になったアレリーは、それはもう楽しそうに私と修神おさめがみの石を相手に喋っていたのだが、それをふと中断して、窓の方を見た。

 白い石は断熱性も高いらしく、部屋の中は一定に保たれている。土足は1階だけで2階は室内履きに履き替えている為、カーペットも敷いてある以上は素足でも問題ないのだが、アレリーはちゃんとベッドから降りる時にスリッパに近い室内履きの靴を履いていた。

 そのまま窓に近づき、恐らく高価なのだろう歪みの無いガラスがはめ込まれたそれを外側へと開く。


「……え?」


 なお、私は外で騒ぎが起こっているのは分かっていたので、止めようかちょっと迷ったのだが……。

 流石に、アレリーからすれば想定外。寝耳に水と言ってもいいぐらいの衝撃だったんだろう。

 何しろ、真っ白な石で作られた、碁盤の目のように道が広がる美しい街は。日が落ちていき、最後の光をいくらか残すだけという現在。



 夕日が霞んでしまう程、真っ赤に燃えていたのだから。

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