第2589話 73枚目:有効対策

「……久しぶりにこんな美味い茶を飲んだ気がするよ」


 私はうっかりそのレア度を忘れるぐらいの日常だが、そう言えば私の島は神獣の麒麟ルイシャンがいるし、精霊獣や属性精が数えきれないほど存在する、ある種の楽園だ。そこで育てられた素材を使っているのだから、まぁ、普通の品であるわけがない。

 何のことかって言うと、私がインベントリから出したお茶を飲んだら、占い師さんにくっついていた油の浮いた黒っぽい泥のような色が薄くなったんだよな。まぁ、邪神相手ならある程度浄化の効果もあるか。あるな。精霊は世界を越えても変わらないみたいだし。

 ほぅ、と息を吐く占い師さんだが、その落ち着き方はお茶が美味しいだけじゃなくて、推定名前の無い邪神の力がある程度浄化されたからだと思う。これ、私についてきてくれる精霊さんが表に出れたら浄化も出来たんじゃないか?


「何というか、その、でしょうね。としか……」

「ついでに言えば頭がすっきりした気もするし、この部屋が随分おぞましく感じるんだが、その辺どうなんだい?」

「それもまぁ、でしょうね。としか」

「……なるほど。どうやらあの子がダメどころか敵だってのは本当らしい」


 と頷きつつカップが差し出されたので、私はお茶のお代わりを注ぐ。そしてそれをぐいっと一気にあおる占い師さん。うーん、やっぱりこの世界の人は回復力が高いな。お茶を2杯飲んだだけでこう、貫禄というかオーラが随分すごい事に。

 まぁ恐らく、これでもまだ本調子じゃないんだろうけど。戻ったというべきであっても、ある程度が頭につくだろう。この人何者だ? 占い師か。そうか。そうだな。


「使いの娘。同じ場所のお茶っ葉か薬草はあるかい」

「お茶の葉と、薬草と、あと若干なら香草の類もありますけど」

「どこにどうやって持ってるのかは聞かないよ。じゃあ、白い煙を出す白い葉は?」


 白い煙を出す白い葉。条件だけ聞くとホワイトセージとかその辺っぽいが……あ、生だけどセージがあるな。クリーム系の料理にバターとセットで入れると美味しいんだ。白くないけど大丈夫だろうか。


「これとかどうでしょう」

「ほう? ……良いものじゃないか。貰うよ」

「どうぞ」


 大丈夫だったらしい。

 で、そのセージの葉を手に持った占い師さんは、部屋の隅から灰の溜まった丸い灰皿のようなものを持ってきた。そしてそこにセージの葉を置いて、丸い灰皿の縁についていたらしい黒い棒を近づける。

 すると、じりじりとセージの葉が燃え始めた。生のセージなので、当然結構な量の煙が出る。窓もカーテンがかかって閉まってるし、扉も開けてないから空気の流れは実質無い。リアルでやったら火災報知器が反応しかねないな。

 で、もくもくと煙が充満していく中で占い師さんは灰皿のようなものの前に座り、口の中で何かを呟き……いや、唱え始めた。


「おぉ……」


 たぶん祝詞かなんかなんだろう。何せその呟きが始まった途端、もくもくと充満していた煙が、キラキラ輝き始めたんだからな。もちろん魔視による視界なので、何らかの神の力が働いているんだろう。

 そのキラキラは、どうやら空気まで含めてこびりついていたらしい油の浮いた黒っぽい泥のような色を綺麗にしていった。その分だけ煙とキラキラも消えているから、相殺って形になるんだろうな。

 つまりは浄化してるって事なんだが……ほんとにこの人何者だ。占い師か。そうだな。


「ふぅ……だいぶすっきりしたね。使いの娘、まだあるかい」

「まだありますよ」

「なら後で屋敷を回らないとねぇ」

「あ、可能なら湖にも行って下さい。一台完全にダメなやつがありました」

「あそこもか……。水がダメだと、被害が大きそうだね」

「とりあえず今日の昼前時点で、私が見えた人に伝えて故障って事にしてもらいました。最新型だそうなので、まぁ一応まだマシかなと」


 そしてセージが燃え尽きたところで腰を上げる占い師さん。んんー? なんかさっき部屋から出てきた時と比べて、一気に腰が伸びてる気がするな?

 たぶん部屋のついでに自分も浄化されたんだろうけど、やっぱ回復力高いなこの世界の人。

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