第2588話 73枚目:事情その2

 都合4人目の私が見える人はっけーん、と思っていたのだが、この女性、かなり体が悪そうだ。……まぁ魔視によって力場が分かる私からすれば、その原因は明らか過ぎるんだけどな。これだけ推定名前の無い邪神の力にどっぷり漬けられてたら、そりゃ具合も悪くなるだろうさ。

 さて問題は私自身の事をどう説明するかだったのだが、どうやら扉が開くとメイドさんに連絡が入る仕組みでもあったのか、すぐに他の人がやって来て女性に話を聞いていた。

 その際私がメイドさんには見えていない事に気付いたのか、一瞬、ん? みたいな顔をした女性。だが流石年の功と言うべきか、さらっとお茶の準備を頼んで部屋に引っ込んだ。もちろんその際、メイドさんに見えない位置で私を手招きするのを忘れない。


「で、何者だね?」

「ド直球な方は好ましいですよ。話が早くて。訳あってこの辺りを調査しているものです」


 なお部屋の中は、それこそ足の踏み場もない程ベッタリと油の浮いた黒っぽい泥のような色が塗りたくられていたので、小さく空気の足場を設置してちょっとだけ浮いておいた。椅子をすすめられたけど、ごめん。見た目だけだって分かってても座りたくない。

 恐らく私の耐性なら問題とは思うが、それはそれとして見た目がな。このドレス鎧が油の浮いた黒っぽい泥まみれになるのは、こう、その、想像だけでぞわっとするので無しで。

 魔視の強度を下げても見えるもんは見えるからなー。ちょっとはマシになるけど、すまないが触りたくないのを優先させてもらう。実際どう考えても絶対に良くないものだし。


「訳あって、ねぇ……うちのお姫様を見定めに来た訳でもなく、うちの神の代替わりを手伝いに来た訳でもなく、調査とね?」

「お嬢さんがいい子なのはよく分かりましたよ。割としっかりしているというのも。……代替わりとは?」

「なるほど。使いとしては新米か」


 使いではないんだがまぁいいや。その方がスムーズに話が進みそうだし。

 で、この女性が言うには、自分は今代の占い師であり、次代の師匠であるとの事。そしてこの家は代々あの白い岩山の神を祀る家系であり、その白い岩山の神は3代ごとに代替わりするらしい。

 そもそも初代があの白い岩山を見つけて神として祀ったのが始まりという話で、4代目で1度目の代替わりが行われた。よって次の代替わりは7代目であり、アレリーが街の代表になる時には代替わりした神を祀る事になるようだ。


「本来なら、その代替わりの儀式や、次の代の神を探すのも占い師の仕事なんだが……弟子に取ったあの子は、筋は良いんだがその辺どうにも鈍くてねぇ。それなら私が出張ればいいんだが、体が言う事を聞きゃしない」

「あの人を弟子に選んだのはあなたですか?」

「いんや。先代の代表の縁だよ。新米でも使いって事かねぇ……そうさ。私はあの子を弟子に取るつもりは無かったんだ」


 そりゃまぁあれだけ推定名前の無い邪神の力がべったりだったらな。どう考えてもアウトだろ。私が見えた事といい割と勘が鋭くて頭も回る、いうなれば「本物」の占い師であるこの女性が何故弾かなかったのか疑問だが、先代の縁だったか。

 ……それに加えて話してくれたところによれば、他の弟子を探す動きがことごとく事故だの急用だので阻害されて、気が付けばいい年だし体力的に遠出が難しくなったとの事。うーん何というか、原因が分かってると露骨な妨害だな。


「これも定めかと思って、あの子を弟子にして、持てる限りの知識と技術を伝えたつもりだったんだが……」

「最初から言う事を聞く気のない相手なら無理では?」

「……。もしかして、そこまであの子はダメだと?」

「というか、実質元凶の仲間ですし……」

「何ぃ!?」

「あぁほら落ち着いてってうわこのお茶もうダメですね。カップもダメそうだから、はいこれ。こっち飲んで下さい」


 ぽろっと本音を零すと、大声を上げた拍子に占い師さんは激しくせき込み始めてしまった。

 だからお茶を飲んでもらおうと思ったんだが、まぁこの部屋だからな。最初、メイドさんから受け取った時は普通だったお茶が、油の浮いた黒っぽい泥まみれになっていた。

 なのでそれは横に避けて、インベントリから出したお茶とコップを差し出す。大丈夫、うちの島で作られたお茶だから美味しいし健康にも良いよ。

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