第2587話 73枚目:お屋敷探索
さてアレリーと占い師の後についてお屋敷に移動した訳だが、こちらでもちょっとした騒動になった。主にアレリーの父親のせいで。
街の現代表を務めている人物の筈だが、どうやら娘の事になると威厳とか仕事とかが丸ごと吹っ飛ぶタイプの親バカだったらしい。まさかアレリーが門をくぐった途端、半泣きで走って来て抱き着くとは思わなかったよ。
周りの人は微笑ましい顔をするか遠い目をしているので、どうやらいつもの事らしい。いいのか、と思ったが、たぶん良くないよな。遠い目をしている人がそれなりにいるんだから。
どうやらこの日もアレリーの婿候補との面談があったらしく、結構な人数が訪れていたようだ。ただし8割方はアレリーの父親に落選を申し渡され、残りはアレリーがお断り申し上げるのだが。
「お父様ったら、またこんなに大勢の人を呼んで。移動も大変でしょうし、そもそも宿泊の部屋数は足りるのかしら。街の方々に迷惑がかかって無いと良いのだけれど……」
と言うアレリーは本気で困っている様子だったので、父親を振り回して愛情を確かめてるタイプのわがまま娘ではない。ちなみに、部屋数は足りていないようだ。あぶれた人間がよろしくない場所の近くで路上泊をしていたり、馬車に乗ったまま夜を明かしたりしているって話を聞いていたから。
婿候補との面談に張り付いているのも何なので、その間は自由行動として勝手にお屋敷の中を歩いてみる。その際魔視の強度を上げて見て回ったのだが、一応お屋敷の中でよく使われるらしい廊下や部屋には、あの油の浮いた黒っぽい泥のような色は無かった。
逆に言えば、使われにくい廊下や部屋には、隅にこびりつくようにして問題の色、もとい、推定名前の無い邪神の眷属の力が残っているんだが。たぶんあの占い師のせいだよなぁ。
「ティフォン様の奇跡が願えれば、あの洞窟の奥を燃やしてしまえばいいだけなんですけど」
ただその場合は水を作り出す魔道具や、問題の占い師が放置される事になる。いやまぁそっちも燃やせば……いや流石に人はあれか。正体を確認してからの方がいいか。人間とは限らないんだし。
とか思いながらお屋敷の中をあっちこっち見て回っていると、なんだか特に油の浮いた黒っぽい泥のような色が塗りたくられたような扉を見つけた。扉をすり抜ける事は出来なかったので、その向こうに入る事は出来ないんだが、露骨に怪しいな。
さてここは何の部屋だ、と魔視の強度を下げて通常視界で観察するが、扉自体は普通のようだ。ただしお屋敷のだいぶ奥まった場所にあるので、ただの物置って事は無い筈だが。
「ふむ。いっそ外から回って、窓から覗きましょうか。確か窓の無い部屋は無かった筈ですし」
しかしべったり塗りたくられてるんだよなぁ。あの占い師の部屋なんだろうか。見えなきゃ普通に良い感じの扉なのに、この色で見える力のせいでとても汚い感じになっている。
これをどうにか出来れば手っ取り早いんだが。と思って扉の端っこに出力を押さえたお掃除魔法を使ってみたが、やはり力場が色としてみえているだけだからか、特に変化は無かった。
異界の大神の分霊である灰色の子供はこれで汚れが落ちていたが、あれはやっぱり大神の御業って事だったんだろう。本来はちゃんと手順を踏んで何なら専用の道具を用意しないといけないところ、お掃除魔法で済むようにしてくれたっていう。
「誰だい、そこにいるのは」
と思っていたら、扉が内側から開いた。うわ、開いたところから油の浮いた黒っぽい泥のようなものがでろっと出てきたんだけど。中にどれだけ溜まっていたのか。床を伝って広がっていくが、それよりも中にいた人だ。
顔をのぞかせたのは、問題の占い師と同じく色の濃い薄布を何枚も重ねてまとった人だった。ただしこちらは、恐らくアレリーの父親より年上だろう。見えている目元周りだけでも結構な数のしわがある女性だ。
「全く、どこから入り込んだのやら。魔法を使う子供なんてただでさえ珍しいのに、それをいたずらに使うなんてねぇ……」
はーやれやれ、という感じでため息を吐く女性だが、うん。この人、私の事が見えてるな?
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