第2586話 73枚目:問題人物

 その後アレリーは私にも料理をおごってくれようとしたんだが、食べられるか分からなかったから辞退した。なお、少なくとも私はこの石の言葉は分からない。アレリーは私と話しながら時々石とも話していたようだが、修行が足りない以上何かが追加で必要なのだろう。

 まぁそれでいくと、アレリーは代々……話してくれたところによると、アレリーで7代目らしい……この街の代表を務めてきた家系だ。という事はあの白い石の山とは切っても切れない関係だし、何なら血筋に加護があってもおかしくない。

 となると問題は、アレリーが拾ったこの四角い白い石が修神おさめがみであり、この世界の大神に修行の許可を貰うべきだ、というのをどう伝えるかだが……と思っていたら、お店の扉が開く音がした。


「ここにいたんですね、お嬢様」

「あら、見つかってしまったわ」

「お嬢様ももう今年で15なのですから、子供のような真似はお止めくださいませ」


 そんなに長く喋っていた訳では無いので、お店の扉が開くのはこれが初めてだ。だが扉が開いてからの足音は真っ直ぐこちらに近づいて来て、躊躇いなくテーブルの横へと立った。

 お嬢様と呼び、そういう会話をする辺りはお付きの人のようにも思うが、格好が違う。何せほとんどが白い服ばかりのこの街で、こんなに色の濃い薄布を何枚も重ねたような人はいなかった。

 頭の上も鼻から下も布を重ねているので、正直ぱっと見は不審者である。だがそうではないのは、アレリーの反応から分かった。


「使いの方、こちらうちで代々占い師をしてくれている方よ。私の代はこの方が占ってくれるの」

「またそんな……その石もいつまで持ち歩いているのですか。良くないものだとお伝えしたでしょう」

「あら、この子に関しては、あなたのお師匠様が良しとしてくれたわよ?」

「っぐ。……ともかく、お戻りください。旦那様が泣きそうになっています」

「まあお父様ったら」


 今正直、それだけで黒判定していい発言があったがともかく。どうやらその占い師というのは私が見えていないようだ。正直見えられても困るが。


「お父様が泣いてしまうのは困るわね。戻りましょうか。使いの方はどうされるの?」

「お邪魔にもならないでしょうし、ついていきますよ。ただし、驚かせてはいけないので内緒で」

「まあ! うふふ、それなら仕方ないわね」


 何しろ、この占い師。重ねた布の色合いの上から、例の油が浮いた黒っぽい泥みたいな色が全身まんべんなくみえていたからな。ははは、滅茶苦茶活躍するなこの加護、受け取る時はどうしようかと思ったが。

 というか、修神おさめがみを良くないものって時点でダメだろ。この世界における占い師がどういう立場なのか分からないが、これを良くないものに判定するのはダメだろ。人工湖のところにいた元婿候補の方がマシだぞ。

 私と会話している(傍目には何も無い所に向かって喋っている)アレリーを苦々しい顔で見ていた占い師だが、その手がすっと白い石に伸びた。


「それじゃあ、ご馳走様。ありがとう」


 が。その前にすっとアレリーが白い石を回収した。そのまま流れるように立ち上がり、日傘を手に取ってカウンターへと移動する。そこでちゃんとお茶の代金を支払ってお店の外に出た。もちろん私もついていく。

 占い師はそれに追随していたが、店を出る時に私がいた、というか、アレリーが話しかけていたになるんだろう。店の奥をちょっと見せられない形相で睨んでいたが。もうちょっと隠した方がいいんじゃないか?


「どうかした?」

「何でもありません」


 いや、一応、アレリー及びアレリーの家族には隠せているのか。私という見えない存在がいるのは想定外か。想定外だな。それはそう。

 しかし、8年前の時点では既にかなり推定名前の無い邪神の眷属の計画は進んでいたとみるべきか。アレリーと白い石の様子は引き続き見守るとして……そうだな。占い師の「お師匠様」には会ってみるべきだろう。私が見えるかもしれないし。

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