第2585話 73枚目:過去特定
「はじめまして、使いの方。私はね、アレリーっていうのよ」
明らかに私が見えている上に、その姿と手に持った白い石でほぼ確定だったので、素直に地上に降りた第一声がこれだった。声はそのままなのか、鈴を転がすような可愛らしい声だ。
私も名前だけを名乗り、そのまま近くの建物に案内される。どうやらこのお嬢さんことアレリーの事を良く知っているらしく、住宅街の隠れた喫茶店だったらしいそのお店で、表からは見えにくい席に案内されていた。
恐らく私と話したいのだろうが、少なくとも道中及びこの店で私が見えているのはアレリーだけだ。独り言にしても目立たないだろうか、と思ったんだが、大丈夫らしい。
「この子とお話していると、最初は皆変わった事をしてるなって目で見るの。でもこの子はちゃんとお話しできるのよって伝えたら、分かってくれる人は分かってくれたわ」
……。それは、その、イマジナリーフレンド的なものだと解釈されたのでは。
という気がちょっとしたが、まぁともかく。アレリーが(他者視点)何も無いところに話しかけ、応答があるかのように振舞うのはよくある事のようだ。なので私と喋っていても問題ないらしい。
なおこの子こと、アレリーの手だと僅かに余るぐらいの白い石は現在、机の真ん中に置かれている。大体予想出来てるけど一応、と、軽く魔視の強度を上げて白い石を見てみると、まぁ、やっぱり予想通りだった。
「それで、使いの方はどうしてここに?」
「ひとまずは様子見ですかね。何か問題が起こってないかなーと見回ってました」
「まあ! 使いの方が見回ってくれるなんて、とっても素敵な事だわ!」
この白い石、
私は使いである事を否定していないが、肯定もしていないので嘘は言っていない。ただ好意的に見られているのは助かる為、そのままこの白い石との出会いについて聞いてみた。
アレリーによれば、この白い石はおおよそ8年前に見つけたらしい。当時のアレリーは街に出て友達と遊ぶのが楽しい盛りであり、その日は住宅が並ぶ辺りでかくれんぼをしていたとの事だ。
「近くで、屋根の形を変える工事をしていたの。だからその屋根に使う石だっていうのは分かったのだけど、私、とっても気になってしまって」
屋根の形を変える、というのは、この街では割とよくある類の工事らしい。……屋根の葺き替えとか、もしくは全部白いから形で変化を付けるって事で、リフォームや外装工事みたいなものだろうか。
まぁともかく、当時のアレリーはその石を拾い、ポケットに入れてそのまま持って帰った。工事に使うものを勝手に持って帰ってしまったという罪悪感はあったが、どうしても手放す気になれなかったのだそうだ。
そして持って帰ったその夜。他の人にするように、眠る前の挨拶をその石にもしたらしい。すると。
「おやすみ、って返してくれたの! 石がお話出来るなんて初めてだったから、その夜はずーっとお話ししていたのよ!」
「次の日は大丈夫でした?」
「あっ。……そ、その、ちょっと眠かったけれど、大丈夫よ。えぇ。次の夜はちゃんと寝たもの」
ともあれ。そこからアレリーは何をするにしてもその石を持ち歩き、話しかけ、そしてそれを特に誰かにとがめられる事も無くここまできたようだ。
ただ誰もこの石が喋れる事を信じてくれず、それだけはとても不満だったらしい。という事は、と、私はここで察した。
「使いの方なら、この子ともお話できるかしら?」
「そうですねぇ。……もうちょっと修行を積めば出来ると思います」
「まあ! 使いの方も修行しないといけないのね!」
「日々精進あるのみですし」
なお、修行を積む必要があるのはこの白い石の方だし、修行を積むにはこの世界における大神の許可が必要だった筈なので、そっちが先だ。
しかし、8年前か。その時点で既にこの石は
……うん。これ、割と手遅れなのでは?
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