第2584話 73枚目:ようやくの本命
さてその後、一応先に空気のよろしくないエリアも見に行ったんだが、そこには私が見える人はいなかった。ただ、思ってるよりも困窮してないというか、ギリギリ最低限の生活は出来てる感じだったな。
エリアの中も中心から外側へ、円を重ねたような形で分けられているらしく。一番外周の住民は街の住民とも繋がりがあって、そこから細々と物資がエリア内部に供給されているようだ。
で、他の見るべき場所を大体見て回って太陽がほぼ真上に上った時点で、ようやく街で一番大きなお屋敷に向かう事に。普通はそこへ真っ先に向かうんだよなぁ! という声が聞こえた気もするが、他の場所で見つけたものがヤバかったからな。後悔は無い。
「……ん?」
で、地上を歩くと人が行きかう都合上、いくらすり抜けると言っても周りが見えない。って事で、屋根から屋根へ飛び移って移動して行ったんだが……建物はすり抜けないらしいので……どうもお屋敷の様子がおかしい。
何というか、警戒度が高いんだよな。の割に警備の人達は何かこう、首傾げながらというか、何やらされてんだろみたいな気配がするし。お偉いさんが来るとか、曲者が入り込んだとか、そういう感じではなさそうだ。
まぁ人はすり抜けるし見えないから別にいいんだが。と、普通に庭を突っ切って、警備の人が交代で出入りしたタイミングでお屋敷の中に入る。お邪魔しまーす。
「あれ? もしかして私を探してます?」
そしてそのまま、メイドさんの会話や間取りなんかから、推定このお屋敷のお嬢さんがいる部屋に向かっている途中でようやく気付いた。これもしかしてあれか? あの現場監督の人が、仕事を放り出して駆けつけるまではいかなくても、何かの手段で「お嬢さんが幽霊に狙われてる」とか伝えたか?
そりゃ困惑するわ。というか、そんな警告を真に受けるとか、お嬢さんの父親は親バカか? ならこれは、街の人は気付いてるお嬢さんの想い人にも気づいてないって可能性があるな。
しかしこれはもしかすると、お嬢さんではなくその父親、この街の現代表の様子を確認した方がいいだろうか。……なんて思っていると、にわかに屋敷の中が騒がしくなり始めた。もちろん私が見つかった訳では無い。
「……あー。この状況で、お嬢さんが外に出かけてしまいましたかー……無断で」
なので、現代表ことお嬢さんの父親が大慌てしているらしい。幽霊相手に大げさだなぁ。
ただ外に出ているなら好都合、と、換気の為に開けられていた窓から外に飛び出して、空気の足場を蹴って高度を上げる。恐らく私の予想が正しければ、お嬢さんとやらの姿だけは見覚えがある筈だ。
問題は色が違うと印象が変わって、そうなると見つけにくいって事なんだが。もしその姿が、服装まで一緒だったらたぶん……。
「ん?」
なんて思いつつお屋敷の周りから少しずつ距離を離して街を探していると、お屋敷から少し離れた場所で、上を見上げている人がいる事に気付いた。
いや、上を見上げているというか、私を見てるな。視線が合ったらにこにこ笑って手を振っているし。
その場所は住宅にほど近い、人気のない路地だった。もちろん上から見たらそう見えるってだけで、実際には周囲の建物に人がいるんだろうが。
腰の所に大きなリボンが巻かれ、袖口と裾にレースが入った白い半袖ワンピース。足元は、低いヒールの白いブーツ。その頭を飾るのは、これも白いカクテルハット。近くの壁に立てかけられているのは、日傘だろうか。
その、推定10台前半と思われる少女は、動作の1つ1つから指先まで磨き抜かれたように美しい。涼やかで嫋やか、育ちの良い上品さを隠す事も無い、絵にかいたようなお嬢様だ。
ただし。その僅かな風に揺れる長い髪は艶やかな黒。こちらを見上げてにこにこ笑っている目は透き通った紫。肌の色は、健康的に日焼けしたような色。
「……あぁ、なるほど」
そして。こちらへ振ってみせたのと逆の手には……それこそお茶のコースターぐらいの大きさで、もう少し高さのある、四角く白い石が大事に抱えられていた。
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