第2578話 73枚目:気になる場所
という訳で、そのまま空気の足場を蹴って移動した石切り場。ちゃんと着地して周りを見るが、やはり私を見れる人はいないようだ。誰も反応しない。
が、何か理由があるのか、地面の下には入れなかった。切り出された石を運んでいる台車は石ごとすり抜けたので、地下に潜る事は出来ないってだけのようだ。
まぁ地面の下にまでうっかり潜れたら、現在位置が分からなくなりそうだしなぁ。と、石が今まさに切り出されている現場をあちこち見て回っていたのだが。
「……なんですかね、このいかにも何かありそうな洞窟は」
石切り場の端に、岩山の中心ないし山頂の方向へ開いた洞窟があるんだよな。洞窟というか、ちゃんと四角いから人工的なものなんだろうけど。トンネルって言った方が正しいかもしれない。
街の上から見た時は気付かなかったが、岩山の石は真っ白な上に影も薄い。だから遠近感も狂うし、こういうものを見落としやすい。それは地形というか色味的に分かっていた事だ。
で、まぁ、そんな怪しい場所があったら当然中を見に行くよな。だって人の出入りも無いから、休憩所って訳でも無さそうだし。作業とは関係ないのにそこにあるトンネル。絶対何かあるだろう。
「……」
幽霊状態でも普通に歩けるので、トンネルの中を進んでいく。灯りも何も無いが、全部が白い分だけ外からの光が奥まで届くし、私はそもそも暗闇でもある程度は周りが見える。
歪みやズレの1つもなくひたすら真っ直ぐ続くトンネルを進んでいくと、だんだん周囲が変化し始めて行った。と言っても、見た目は何も変わらない。少しずつ暗くなってはいっていたが、それはトンネルの奥に進めば当たり前のことだし。
変化があったのは、魔視の方。もっと言えば、土地の力場の方だ。進むにつれて石本来の白さを塗り潰すように色を重ねて濃くなっていくそれは、まぁこの岩山に対する信仰があるならそれも当然だろうと思っていたんだが……。
「……これが正当な神の力だというなら、それはそれでおかしいですね?」
その色がなー。油の浮いた黒っぽい泥みたいな色なんだよなー。正直、これがこの岩山を神格化した神の力だとは思いたくない。だって絶対嫌だろ。こんな、明らかにヤバイ色だと認識できる力を持つ神とか。
なおかつ、これが万が一正当な神の力だとしたら、困った事に神の力が人の多い街や、信仰値の高い人が多いだろう石切り場に、欠片も無かったのはダメなんじゃないかなぁと思う訳だ。
だってどう考えても力が及んでないって事だからな。レーンズの加護は自動発動であり、「みる」という行動の全てに付随する。完全に切った訳では無く、むしろ新しい場所に突入してちょっと詳しめにみてるっていうのに、今の今まで全く見えなかったし。
「あ、もしやこれが敵性存在の領域に入った時の光景。なるほど。……慣れる気がしませんね。ちょっと条件いじりますか……」
と、微調整しながら、足元もそんな色になってきたので空気の足場を設置し、少しみえる色の濃さを薄くしながら進んでいく。というか通路が捻じれて見えてきたんだが、通常視界だと真っ直ぐなままなんだよな。もしかしてなんか空間歪んでるのか。
二重に見える光景に若干頭が痛くなってきたが、ここまで来たら最奥を確認してから撤退しないと、こう、次に来れる気がしない。というか、明らかにヤバイのが分かったのだから、ここが推定「敵」で合っているだろうし。
という事でさらに進む事しばらく。魔視の視界では通路がネジ穴のように螺旋を描いている上にべったりと油の浮いた黒っぽい泥みたいな色で塗りたくられているが、通常視界だと変わらず真っ直ぐなトンネルが続いた先に、ようやく終点が見えた。
「……うーわ」
ただし。
そこにあったのが、祭壇っぽい机と舞台みたいな円形に掘りだされた場所だったのは良いとして……その中心に立つ(通常視界で)白い柱が、(魔視で)油の浮いた黒っぽい泥みたいなものに半分以上取り込まれてるのは、これ、どう考えてもアウトだよなぁ……。
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