第2577話 73枚目:全体把握

 さて長方形の街を中心とした場合、まず上から3分の1ぐらいのところに大きなお屋敷がある。そこから上下左右に伸びる道が一番大きくその周囲が賑わっていて、そこから伸びた更に細い道に沿って家や店が建っているようだ。碁盤の目だな。

 道が細くなっていくにつれて、その近くにある建物は住宅が多くなっていくようだ。とはいえ、街の端は住宅ではなく、何か別の用途……宿とか荷物置き場、後は馬がいっぱいいるな。そういう建物になっているようだ。

 何か一部、特に右下あたりには、こう、白い建物はそのままなんだが、布や板を使って追加で色々している……まぁ、あんまりよろしくない気配のする場所もあるが、街全体から見ると狭い範囲なので、治安は良い方に分類できるだろう。


「恐らくあの大きな屋敷がこの街の代表者か、それに近い立ち位置の人が住んでいるか、役所みたいなものなんでしょうけど」


 一方街の外はというと、岩山の中心部というか、標高が高い場所は街から見て左上方向。推定岩山の山頂と街を繋ぐ直線の、街側から4分の1ぐらいの所に石切り場らしき開けた場所で多くの人が動いている場所がある。

 真四角の貯水池あるいは人工の湖は、街から見て真上だ。街と石切り場の両方に繋がる水路があるから、やはりあそこが水源なんだろう。ちょくちょく人工湖の傍の建物から人が出てきては柱のようなものを触っているから、何か連絡手段があるのかもしれない。

 街の周囲、今の街と同じ大きさの四角で周囲を囲むぐらいの範囲は真っ白い岩だが、そこから先は白っぽいが荒野になっているようだ。街というか岩山から離れる程に緑が増えていき、街から見て左下の方向に道らしいものがある。というか、馬車が数台まとまって移動していっている。


「で、どこへ向かうかですが」


 上空から見える範囲にあるものはそれぐらいだったので、次は行動方針だ。とりあえず現状何が問題なのかさっぱり分からないので、まずは情報収集だな。

 幽霊状態という事は人目を気にする事なく行動できるので、本命はあの大きな屋敷だ。もしあの「お気に入りの形」が何かしら関わってくるなら、あんなお嬢様らしいお嬢様がいそうなのはあそこだろうし。

 ただ、よろしくない気配のする場所も気になるんだよな。いかにもあんな、何か問題がありますよって場所があるんだ。ただよろしくない場所なだけで無関係って事は無いだろう。


「……石切り場にしましょうか。恐らく何が問題で切欠にしろ、この街を見る限り絶対無関係って事にはならないでしょうし」


 のだが、まぁ、情報的な意味で一番ハズレにはなりにくいってなると、石切り場だろうな。何しろこの街の主要産業であり、恐らくはあの岩山と石切り場によって街の豊かさは支えられている。

 それに「拉ぎ停める異界の塞王」の本体は、まさしくこの白い石による台座だった。だから、そっちの意味でもハズレとは考えにくい。というか、あの石切り場で切り出された石である可能性が非常に高い。

 この初手で向かって情報が無かったとしても、そこで働く人の様子を見て、顔をざっと覚えておくに越した事は無い筈だ。だってどう考えても避けては通れないだろうからな。


「まぁあの石の性質も見ておきたいですね。流石に「モンスターの『王』」と化した状態とは比較できませんが、あの重力の力がどこから来たのかも分かりませんし」


 普通に重いだけならいいが、レーンズの時の事を考えるとな。もしこっちにも「名前の無い邪神」が手を出した結果「拉ぎ停める異界の塞王」になったんだとしたら、発見が難しい可能性がある。

 何しろ、重さっていうのは目に見えない。私はそこそこ動けるとはいえ、ここまで一般人が多いと巻き込みが怖いから、元凶がいそうな場所は早めに見つけておきたいんだよな。

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