第2576話 73枚目:次の過去

 ちょっと形は特殊だったが、神殿は無事建てられた。やっぱり加護を貰った人で建てるのが正解だったか。ただ加護が必要だったのは建てる時だけであり、そこに神を定着させるというか、神殿として機能させる儀式をするのは御使族の人でも良かったようだが。

 で、神殿が出来た直後ぐらいに挑戦した人が、慌ててログアウトして戻って来たらしい。どうやら明らかにレーンズの時とは違う、今度は何というか、栄えている街みたいな場所に出たらしい。

 時代が戻ったのか進んだのかは判別できないが、とりあえず別の場所に挑めるのなら挑むべきだな。という事で私もしっかり装備とインベントリを確認して、「家」へ突入だ。


「で、1人で放り出されるのは変わらないからいいとして……」


 周りを見ると、確かに栄えている感じの街だ。違うのは、街の端を示す高い壁が無いって事だろうか。服装とかの違いはよく分からないが、言葉は自動翻訳されるらしい。賑わい人が行きかう、こっちで言う所の屋台通りみたいな感じだろうか。

 例えば『スターティア』とかなら屋台があって、それを借りて使う事で使用料とする形だ。だがこっちは、道端に布を広げるのが一般的らしい。地面は全く同じ白さの石材で覆われているし、周囲の建物も同じ素材みたいだから、近くに石切場でもあるんだろうか。

 ただ今までと違うのは、これだけの人が行きかっていて、誰も私を見ないって事だろうか。いや、もっとはっきり言うなら、人々が私をすり抜ける。


「まさかの幽霊状態。難易度が順当に上がった気がしますねぇ……」


 周りの人に気を払わなくていいのは助かるが、直接干渉は出来ないのだろう。もしくは、私が直接手を出すとダメないし簡単すぎるのか。

 しかしこれは、一体どこに行けばいいのか。と、とりあえず周囲を見ながら通りを歩いてみる。しかし自分を他の人がすり抜けるって不思議な感覚だな。何も無いから映像みたいなものと思えばいいんだろうが、つい避けそうになる。

 ……なお、そこから人混みで周囲の事はほぼ分からない上に、見えないんだったら上空から全体を見た方が早いんじゃないか? と気付くまでしばらくかかった。


「んん? 変わった形を……しているというのはフリアドの方の常識でした。壁が無いって事は外敵がいないという事。なら、これも理にかなっているんでしょう」


 で、大ジャンプで飛び上がり、【飛行】で滞空しながら見下ろした街は、長方形をしていた。私がいた通りを中心に、縦に長い。フリアド世界の街って言ったら丸いからな。大体防壁を設置する都合上。

 さてその長方形をしている街だが、まず周囲も岩場らしい。というか、この町自体が巨大な岩山……それもがっつりと岩が山の形をしている地形、その麓に近い場所を削りだした平地らしい。

 そしてその岩って言うのがほぼほぼ真っ白だ。そう。街の建物や石畳に使われているのと同じ。少し山の方へ視線を向けると石切り場のような場所があるから、この岩山を削りだして建材として使っているのだろう。


「水や畑に困りそうな地形ですが、その辺不便をしているようには見えませんね」


 何でだろう、と思ったんだが、よくよく見てみると、あちこちに噴水や井戸のようなものがある。そして街から見て少し高い位置に、巨大な湖のようなものがあった。

 ただし真四角だったので、正確に言えば貯水池なのだろう。そしてそこには、何か柱のような物が一定間隔で設置してあった。しばらく見ていたら同じく白い建物から人が出てきて柱で何か操作して、それに応じて大量の水が出てきたので、水を生み出す魔道具とかそんな感じなんじゃないだろうか。

 恐らくこの街は、この岩山の岩で栄えている街なんだろう。岩を切り出して売るだけの簡単な(?)お仕事をするだけで、水も用意出来れば食料だって買える。


「……それはそれとして、白い岩、ですか」


 なおこの光景を見た時点で、ここが「拉ぎ停める異界の塞王」の過去編だという事も確定した。圧倒的にあいつだろう。……確か本体は、フィギュアの台座みたいな部分だったか。

 ……この岩山と街で祀られてる、岩山を象徴し石材に感謝する形の信仰で形になった感じの神だったのか? 少女の形がお気に入りだった理由は分からないが。

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