第2579話 73枚目:奥にあるもの

 明らかに大事に祭ってある石の柱……いやよく見たら水晶みたいに先が尖ってるな。なので一応オベリスクと呼ぶとして……がどう見てもヤバイものに取り込まれかけている。

 これは絶対即行でどうにかした方がいいものだと思うんだが、ここでちょっと気になったのがオベリスクの取り込まれ方。魔視でのみみえる油の浮いた黒っぽい泥のようなものは、上から取り込まれつつあるようにみえる。

 という事は……と、そろっと視線を、どうやらオベリスクと同じく上が尖った形に掘り抜かれているらしい部屋の天井へと向けると。


「……あぁ、なるほど……」


 その、通常視界だと尖っている部分に、ドロォっとしたものがわだかまっていた。そしてそこから、ボタリボタリと一定間隔で油の浮いた黒っぽい泥のようなものが降って来て、オベリスクを取り込んでいっている。

 あの中心にあるのが問題の原因なんだろう。という事は、ここであいつを先行して封じてしまえばいいのでは?


「――[シールキューブ]!」


 よしいけた。


「なんかすごい勢いで大事なフラグをへし折ってしまった気もしますが、まぁ確実さを優先するという事で」


 もちろんそのわだかまっていた何かは盛大に暴れているし、残っている油の浮いた黒っぽい泥のようなものは垂れてきているんだが、私の所までは届かない。何せ入口すぐのところから魔法を使ったからな。

 そのまま二重三重に封印を重ね掛けて、抵抗の動きがほとんど外に伝わらなくなるところまで厳重に封印する。残っている油の浮いた黒っぽい泥のようなものと問題の奴の力場はそのままだが、これはちゃんとした神か神見習いに綺麗にしてもらうとして。

 封印魔法を手元に持ってきて、表面に油の浮いた黒っぽい泥のようなものがくっついているので更に封印を重ね掛け。その上でぎゅっぎゅっと圧縮してみたら、どうにか1m四方ぐらいの大きさまでは縮んだ。しかし嵩張るな。


「ふむ。流石にインベントリには入りませんか」


 って事は、一応生き物ではあるんだな。生き物はインベントリに入らないから。だからこそアイテムボックスが開発されたんだろうし。

 でも、これを装備のアイテムボックスに入れるのも嫌だな……。かといって、この辺に放置していくのもダメだろうし。この場所が多分山の中心、山頂の真下に当たるんだろうから、山頂に放り出すのもダメだろう。

 けど持ち歩くには大きいんだよなぁ……。……外に出しておいたら、太陽の光で浄化されないだろうか。あくまで力場的なものだから、見た目には透明な箱に見える筈だし。いや、それでも目立つのは目立つな。


「ん? いやこれ、通常視界でもなんかありますね……?」


 と思いながら1m四方の封印魔法の箱を眺めていたんだが、魔視だと油の浮いた黒っぽい泥のようなものの塊だ。しかし魔視を緩めてみると、透明な封印魔法の箱の中に、これもまた透明な何かがあるように見えた。

 生き物には違いない筈だし、どう考えても元凶であり、恐らくは名前の無い邪神の眷属だ。よって容赦は必要ないだろうと判断して、封印魔法の箱をぶんぶんと強く振ってみた。

 上下左右に振ったので、中身は相当振り回された筈だ。というか実際、途中までは何とか踏ん張っていたらしいのが、剥がれて中で転がっている感じの動きをしていたし。


「それでも透明なまま、となると、元から透明な何かなんでしょうか」


 なお剥がれてからも更に振ってみたが、その上で変化が無い。という事は、そういうものなんだろう。

 さて推定名前の無い邪神の眷属は透明な何か、というのが確定したところで、これをどうするかだ。恐らくこの岩山に対する信仰を集めていた神はあのオベリスクだろうし、この場の状況を見る限りとっくに力は底をついているだろう。

 前回は修神おさめがみであるレーンズが直々にこの世界の大神の神殿へ持って行ってくれたが、今回はそういう訳にはいかない。だって下手すれば、今この土地には神がいないからな。


「……ん? いえ、それならそれで、どこかに神化するアイテムが出現しているのでは?」


 確か「祈願結晶」とかいうやつだ。それに触ったら修神おさめがみになれるってレーンズが言ってた。

 実物を見た事は無いのでそれがどんなものかは分からないが、神まで届かなかった祈りがどうのって言ってた。だから恐らく、神のいない場所での祈りは「祈願結晶」になるのだろう。

 神がいない場所に祈りが集まると、神になるアイテムが出現する。うん。よくできたシステムだ。……それはいいとして。


「あのオベリスクがまだギリギリ、信仰を受け止められる程度の力を残しているなら話は別ですが……」


 この状態じゃなぁ。

 んんー? 謎というか探すべきものが増えたな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る