第2571話 73枚目:異変の終わり
そこから昼までお腹いっぱいでレーンズが動けない間に私はそれなりの量の保存食を作り、そして昼に最後の炊き出しとして具沢山のスープを振舞って、レーンズと共に村を後にする事になった。
ここでちょっと予想外だったのが、村が見えなくなるぐらいまで歩けた事。そしてその、周囲に何も無くなった状態で、レーンズが私に向き直った事だ。ついでに出会ったときぶりにじろじろ眺めまわされたが、まぁそれはいいとして。
「……まぁ。まぁまぁ、役には立ったか」
その第一声が、こう、完全に値踏みもとい評価するものだったのは、さてどういう事だろうか。
はて? と思いつつすっとインベントリからアップルパイを取り出してみると、すっと吸い寄せられる万華鏡のような目。やっぱりだいぶ気に入ってたな? 苦しいのを我慢して食べるぐらい美味しかったんだな?
ここでアップルパイを上下左右に動かすのも楽しゲフン見てみたいが、あえてここでは、もう片方の手にクリームもフルーツもたっぷりのフルーツサンドを取り出してみる。お。中身が何かは気付いたみたいだな。視線がすごい。
「違う! お前、遊んでるな!?」
「まさか。立ち止まっていきなりこっちを見始めたので、お腹空いたのかなと思っただけですよ」
「くっ、嘘がねぇ……!」
嘘は言ってないからな。確かにその目は嘘や敵意を見抜くんだろうが、別に嘘を吐かなくったって、情報を偏らせる事は可能だぞ? もしかしてこの時のレーンズ、だいぶ若いのか。
いや元々こういう性格っていう気もするな。「遍く染める異界の僭王」の時も、結局ゲテモノピエロに騙されていいように使われて最後は切り捨てられてたし。あれは相手が悪かったのもあると思うが。
とりあえず、なにやら真面目な話らしい空気なので一旦両方をインベントリにしまって……。
「……欲しいんですか?」
「ぐっ」
「言葉で言ってくれないと分からないのですが?」
「うぐ」
そこまで視線で圧をかけるんならさっさと欲しいって言えよもう。甘い物が好きなのは分かったんだから。元が少食でお腹もたれるの分かってるのに、それでもつい食べちゃうぐらい好きなのは見てれば分かってるんだから。
「……捧げものとしてなら特別に今この場で受け取ってやらんでもない!」
「分かり辛い上に誤解を招く言い方だと思います。素直に美味しいからくれって言った方が信仰も集まりやすいと思いますよ」
「あーもーうっせー! 神見習いにだって威厳ってもんがだなぁ!?」
「威厳以前に信者とのやりとりに難ありなんですよね。ご利益が何か知りませんけど、もうちょっと分かりやすく優しくしないと、最初の印象が最悪に近いとしか」
私は
というか、私の素直な意見(意訳)にいちいち反応するって事は、心当たりあるんだろ? 止めとけ。無理してるんならなおさらに止めとけ。もし素に近い状態でそれで、どうすればいいのか分からないとかならともかく。
「うぐ……。……違う! そうじゃない、いや貰うが! その美味かったやつもそっちの美味そうなやつも貰うが!」
「あんまり日持ちはしませんが大丈夫ですか?」
「……。腹の膨れるやつなのか」
「膨れるやつですね。両方」
レーンズはアップルパイを選んだ。そうか。よし。好物はアップルパイって覚えたからな。そして司令部に伝えるからな。
「だからそうじゃなくてだな! 喜べ、今回役に立ったから、加護をくれてやる!」
「あ、今回の仕事とアップルパイで加護が貰えるとこまで信仰が達したと」
「そうだが! 見習いとはいえ神の加護だぞ!?」
「私心の底から敬愛と信仰を捧げる神がいますので……」
「はぁ!? ……嘘が無い!!??」
おい。何でそこで一番驚くんだ。
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