第2570話 73枚目:無為の備え

 アップルパイを食べ終わったら、流石に疲れていたらしいレーンズはちゃんと寝る体制に入った。私も一通り聞くべき事は聞いた(筈な)ので、こっそりさらに追加で封印魔法を重ね掛けてから小屋もとい家の端でテントを出して、中に潜り込む。

 すると案の定「○○時間眠る」という選択肢が出た。やっぱり時間加速があったか。まぁでないと、とっくにログイン制限に引っかかってるぐらいの時間が過ぎてるからな。だろうと思ったけど。

 ひとまず5時間に設定して謎技術による睡眠と起床。テントから出て外の様子を見ると、まだ暗い。それはそうだな。ちょっと短かった。もう一度テントに戻り、追加で3時間睡眠。一瞬だから実感は無いけど。


「お、良い具合の時間ですね」

「んぁ?」

「炊き出しに行ってきます。もうちょっと寝てていいですよ」

「ぉー……」


 寝ぼけて? いるレーンズを置いて村の広場に移動。流石一次産業の人達だ。朝日と共に起きて動いている。

 魚がいなくなっただけで川はそのまま、つまり水はちゃんと手に入るし、煮沸してから飲んだ方が良いっていう知識も広がっているようだ。まぁそこ大事だからな。

 昨日と同じく、少しだけ具材の割合を増やしたスープを振舞う。まぁ、回復が早いのは良い事だ。良い事だが、昨日の今日で子供が走り回れるようになってるのはすごいな?


「とはいえ、恐らく私もいられるのは長くて今日の日中一杯でしょうね」


 たぶんタイムリミットは、レーンズがこの村から去るまでだ。主役はレーンズだからな。流石に大神の神殿に、あの邪神の眷属を持って行って確認するところまで付き合えとは言わないだろう。

 となると、この推定ステージで出来る事はここまでとなる。具体的には、ここから数日分から数週間分の保存食を作って村に保存したとして、無駄になる可能性が高い。

 でもこれが亜空間で無かった場合、ここで保存食を作って食いつなげるようにしておかないと、折角助けた村が防いだ筈の飢えで全滅してしまう。それはよろしくない。


「森と川が元に戻るにはもう少しかかるでしょうし」


 恐らくというか、たぶん間違いなくここは「もしも」の空間だ。何故なら私は既に「遍く染める異界の僭王」と戦い、倒しているから。そもそも今ここに来たのだって、異界からの侵略があったからだ。

 侵略があって、そこに参加していた以上、「遍く染める異界の僭王」の存在は揺らがない。という事はすなわち、「遍く染める異界の僭王」にならなかった・・・・・・レーンズという修神おさめがみは、存在しない。そういう世界線だ。

 だから実現しえない。この先の未来は存在しない。さてそれでも「未来に残す」かどうかという選択になる訳だが。


「……まぁ、これも「やれるだけ」の内でしょう」


 ここまで来て後味が悪くなる可能性は残したくないよなぁ。って事で、素材のまま放り込んでおいた肉や野菜を使って、保存食づくりだ。果物だってちゃんと加工してドライフルーツにすれば、まぁまぁもつからな。

 で、村の人達の注目をこれでもかと浴びながら保存食を作っていると、そこでようやくレーンズが起きてきた。


「………………まーた訳の分からない事を……」

「だって森と川が元に戻るには、最低でも数日かかるでしょう」

「それはそうだがだからと言ってなんだそれ。何でただの肉が半月近くも腐らずそのままなんだよ」

「そういう加工をしたからですね」

「限度があるだろ、限度がぁ……!」


 まだ眠いらしく、ツッコミもとい口調にいまいちキレがない。夜中にアップルパイ半ホール食べてたけど、それでもお腹減ったのか? それとも逆に、やっぱり私仕様だったアップルパイを半ホールも食べて消化しきれてないのか?

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