第2569話 73枚目:神と邪神

 アップルパイ頬張りながらなので絵面があれだが、レーンズ曰く名前の無い邪神とは、基本的に意思の疎通が出来ないらしい。

 修神おさめがみも神ではあるので、意思疎通ができない相手っていうのはいない。だがこの名前の無い邪神は、どれだけ声を聞きとろうとしても、逆に言葉を尽くしても、一切やり取りが出来ないとの事。

 獣ですら言葉の形でやり取りができるという前提がある以上、それは絶対におかしい事だ。それに何より、今回の蟻の件のように、意思疎通をしようと思えば出来る。すなわち、向こうに言葉の形でやり取りする気が一切ないって事だ。


「普通は、ふつーは! その時点でおかしいんだ! まず話し合い、そんで意見のすり合わせ! そっから妥協点とかを探すのが! ふつー!」


 ……こうはならなかった未来の先を知っている、及び、蟻の群れを最初に見つけた時の様子を見た側としては、お前が言うな、という言葉を耐えるのが大変だったがともかく。

 流石にそこまで全く一切譲らない相手であれば、ある程度は戦う必要がある。よって、名前の無い邪神は特に要注意であり、大神に敵対的な邪神と位置付けられ、例外的に神及び神見習い側からの先制攻撃が許されているんだそう。

 つーか邪神であっても先制攻撃出来ないのかとちょっと顔が引きつっちゃった訳だが、ものすごい胡乱な目を向けてくれたレーンズによれば。


「そもそもだな? 神って言うのは修神おさめがみが独自の信仰を確立してなるもんで! 修神おさめがみになるには「祈願結晶」を見つけなきゃなんねーの!」

「「祈願結晶」とは?」

「はーぁ!? 神まで届かなかった祈りが地上で集まって形になったもんだが!? 常識だぞ!?」

「つまりその「祈願結晶」を見つければ誰でも修神おさめがみになれると?」

「誰でもっつーか、何でもな。それこそあの蟻の群れのどれかが「祈願結晶」に触ってたら、名前の無い邪神と契約した修神おさめがみの誕生だ。ま! 修行するには大神の許可がいるから、そこで弾かれるんだけどな!」


 フリアド世界とはだいぶシステムが違うが、こっちだとそういう事になっているようだ。これ、聞いてないとさっぱり分からないやつだな。どの段階で戻れてどれだけ時間が経っているのかは分からないが、共有しとかないとまずそうだ。

 それに、こっちの方が大神との距離が近い。だって少なくとも、修行の許可は大神が出してる訳だろ? という事は恐らく正式な神になる時もなんかあるだろうし、世界の基本運営は自分でやってそうだ。

 うん。絶対忙しいな? そして無理をするタイプだったか。もしくは分体を作るのに慣れてる。自分を増やして仕事を片付けるペースを上げる方向で。


「まぁ、邪神と神については大体分かりました。ところで凍らせてから燃やせと言われましたが、これは結局どうするんです?」

「決まってる。封印魔法で捕まえられたから、大神の神殿に持って行って調べてもらうんだよ。ちょっと遠いから間に合うか微妙だったが、補強したんならたぶんいける」

「追加でもうちょっと補強しておきましょうか」

「まだ重ねられるのか!?」


 これ、と、相変わらずゴゴンゴンと虫かごセミファイナル的な大暴れを続けている肉片のような物×5が入った封印魔法の箱を示すと、そういう対処をするらしい。絶対忙しいじゃないか。

 もしかして、邪神にどうこうされる前から過労気味だったんでは……? と、思わず分霊である灰色の子供を思い浮かべつつそんな心配をしたが、真実は分からない。そしてレーンズは私のそんな変化には気づかず、ぎょっとしていた。

 流石に大神が相手なら、いくら封印魔法を堅固にしておいても何とかなるだろうし、時間制限は長い方がいいんじゃないか。……っつか、驚いてもアップルパイの皿は離さないのな。気に入った?

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