第2562話 73枚目:いつもの対処

 そして村の中央まで案内してもらって、広場として使われているそこに石で大きめの囲いを作って簡単なかまどを作ったまではレーンズも疑問符を山ほど浮かべていただけだったのだが、そこにインベントリから出した大釜を出すと、「はぁ!?」と大声を出して固まってしまった。

 その大声で周囲の家にいたらしい村人も顔を出したが、私がいつものように魔法で水を出し、火をつけて維持して、何も無いところインベントリから食材を取り出して放り込んでいる様子を見ると、同じように目を丸くしていた。

 そうか、こっちでの時系列が分からないが、たぶんインベントリが無いんだな。最初からないのか、大神が弱って使えなくなったのかは分からないが。まぁそれはともかく。


「はーい、とりあえず出来ましたので、各自器をもって並んでくださーい。たくさんありますからねー」


 【料理】系統のスキルは無事使えるらしく、さくっと具材が全て煮崩れた、とろみのあるスープが出来た。重湯よりは栄養があるぐらいだな。具材の種類の分だけ。

 まぁ正直、この村というか世界の常識からすれば怪しさしかない事をしている。しているが……お腹が空いたところに、すっごく美味しそうな匂いを溢れさせる鍋があったら、どこまで我慢できるかな~? 我慢しなくていいんだぞ~?


「ま、待て待て待て! なんだそっ、くっそいいにおいだな!?」

「美味しいですよー。コップでもお椀でもいいから入れ物あります?」

「無いよ! 無いが、ぐっ、何でこんな絶対怪しいのに怪しいところが少しも無いんだ!?」

「私に害意も敵意も無く、かつ怪しいものは使ってないからですかね」

「存在そのものが怪しいのによく言うな!」


 ほーれほーれとばかりゆるく魔力で風を起こして、村中に良い匂いをばら撒くと、まず最初に気を取り直したらしいレーンズがずかずか寄って来た。そしてその万華鏡みたいな目でじっと鍋の中身を見るが、怪しいところなんてある訳ないだろ?

 だがまぁ、思ったことが全部口に出るらしいレーンズが、いいにおい及び怪しいところが少しも無いと言った事で、主に子供、がいる親が最初に動いた。まぁそうだな。子供には食べさせてあげたいよな。

 恐る恐る、といった様子で差し出された、端が欠けた木のお椀に、零れない程度にたっぷり重湯風スープを注ぐ。落ち着いてゆっくり飲むんだぞー。ちゃんと全員分以上あるからな。


「毒は無い……害は無い……危険は無い……くそっ、絶対怪しいのに栄養満点とか消化に良いとかしか分からねぇ……」

「修神様もいかがです?」

「ぐむ。……くっ、美味い! 何でだ!」


 じーっと鍋の中身を睨むようにしているレーンズに、インベントリから木の椀を取り出してそこに重湯風スープを注いで渡してみる。言葉に詰まったようだが、それでもいっきに飲み干して出てきた言葉は美味いだった。ふふふ、だろうさ。何せうちの島で育てて取れた野菜をたっぷり使ってるからなぁ。

 だがまぁ、見習いでも神であるレーンズが実際食べて美味いと言った事。そして先に食べた子供のいる親と子供が顔をほころばせているのを見て、他の村人も小屋、じゃない。家から器をもってき始めた。はいはい、順番に並ぼうなー。全員分以上はあるからなー。


「ゆっくり飲むんですよー。ご飯を食べて栄養にするにも体力を使いますからね。お腹いっぱいになって、栄養にするところで体力を使い切るのは怖いですからねー」

「……栄養にするにも体力を使う? どういうことだ?」

「お腹が空いたところに、ご飯をただ詰め込むと、それを消化して栄養にするところで体力が尽きてしまう事があるんですよ。これは限界まで消化に良く作ったので、たぶん大丈夫だとは思うんですが」

「は? 食っても死ぬことがあるって事か!? いやでもそうか、冬が開けたところに肉を持って行ったら死ぬ奴が増える! そのせいか!」


 おっと、流石見習いの神だけあってレーンズは知ってたか。そうなんだよな。人間というか生き物って、消化にも結構力が必要なんだ。消化しないと栄養を吸収できないのにな。

 まぁだから、ほとんど消化に力を使わなくても栄養になる重湯風スープを作ったんだが。さて、これでちょっとは状況が変わっただろうか?

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