第2563話 73枚目:問題現象

 どうやらほとんどの村人は重湯風スープを飲んで休めばそこそこ回復したらしく、一安心だな。……回復早いなって思ったけど、ここまで生き延びただけあって変換効率が高いとかそんなんだろうか。

 レーンズはまだ重湯風スープについてぐむむっていたが、私が残っていた重湯風スープを村の倉庫に運び、そこにあった大きな何かの皮を綺麗に洗ってから凍らせてその上に乗せると頭を抱えていた。

 私が凍らせたので、数日は余裕で持つだろう。鍋はインベントリに回収したが簡易のかまどはそのままだし、村人もそれぞれ小さい鍋ぐらいはあるだろうから、後は各自で砕いて食べればいいや。


「え」


 と、思っていたんだが。


「なんだなんだどうした、今度は何だ?」

「それが、あれだけあった筈のスープの氷が無くなっていて」

「はぁー???」


 その後私は再度森に入るレーンズについていき、数時間程森を歩いて戻って来たんだが……そこで倉庫を覗いたら、かなりの大きさがあった筈の氷が無くなってた。嘘だろ。

 あの量を村人で消費出来る訳がない。というかそもそも、バランスボールぐらいある大きさの氷だぞ。私が凍らせた以上温度も相応に低い状態が維持されるし、持ち運ぶのも大変な筈だ。

 というかそもそも、村人には氷を砕いて器に入れて、温めて飲むようにと伝えてある。しっかり頷いているのも見たし、一応レーンズに実演してもらったから、村人が氷を持ち出したり隠す理由がない。


「……ちっ、またか」

「また?」


 私は、村の人達はちゃんと食べたかな、と氷の減り方を確認するつもりで、森から戻ってすぐに倉庫に向かった。対してレーンズは村の人の様子を見たりして、ちょっと遅れたようだ。

 が。私の後ろから倉庫の中をざっと見まわして、レーンズは舌打ちをした。しかし今、またっつったか。あれ、もしかして倉庫に食べ物が無いなと思ったら、まさか?


「倉庫も家も森も何なら近くの川も、食べられそうなものが全部軒並み消えてるんだ。いくら見ても探しても何にも見つからない、今回もだ! あぁクソ、食えるものだけ消えるとかどうなってんだ!?」


 どうやらそういう事だったらしい。がっしがっしと頭をかきむしるレーンズだが、なるほど、これは頭が痛い。

 しかしサブクエストのタイトルとヒントの時点で嫌な予感はしたが、恐らくこれが「豊め枯れる」という事なのだろう。森は豊かで近くに川もある。普通に考えれば飢える事は無い。畑も見たが、何も無い事を除けば土も健康な状態だった。

 にもかかわらず、村の人の痩せっぷりと、一応見習いとはいえ神であるレーンズが苦戦するって状況は何なんだと思ったら、この正体不明が悪さをしている訳だな。そしてそれは、レーンズの目をもってしてもさっぱり分からないと。


「まぁ状況から考えて、食料をこっそり食べ尽くすかどこかへ運ぶ何かがいるんでしょうけど」

「分かってるんだよ! けど何も無いんだ! 痕跡が残ってたら分かるのに! 何も無い! 絶対おかしいだろうが消える訳ないだろ!?」

「まぁ消える訳ないですよね。しかし痕跡が全くないと」


 うがぁああ! と頭を抱えるようにして声を上げるレーンズはともかく、これは確かに困ったな。食べ物があるはずなのに食べられない。これはキツい。

 だがここで思い出すのは、サブクエストのヒント部分だ。そう。推定異世界もしくは異世界モチーフの亜空間でも、相変わらずボックス様は最高なので。


「とりあえず、提案よろしいですか修神様?」

「あぁ?」

「食べ物を置いて、遠くから観察を続けましょう。もちろん、消えたその瞬間を見ても分からなかったとかで無ければですが」

「だーかーらー。それをするには食えるものが残って……あ? まだあんの?」


 非常に分かりやすい囮作戦。そうだろうな。もしまだ食べ物が残っていたなら、レーンズだってその作戦を取っていただろう。その万華鏡みたいな目は、恐らく非常に高性能なのだろうから。

 それをしてないって事は、出来なかったって事だ。つまりレーンズがこの村に来た時点で、既にまともな食べ物は残っていなかった。だから探し回っていたんだろう。ろくに手掛かりも無い状態で。


「少なくとも、あのスープを煮物ぐらい具沢山にして1週間振舞い続けるぐらいは余裕ですね」

「……お前、ほんとどうなってんだ?」


 でもその何でもすぐ口に出る癖はちょっとどうにかした方がいいと思うんだ? 分かりやすくていいんだけど。

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