第2561話 73枚目:状況確認

 どうやら「遍く染める異界の僭王」の過去編が始まった、と判断したのは、その本人について歩き始めた時点で、「指針のタブレット」におけるサブクエストが受注状態になったからだ。

 そして受注したらサブクエストのタイトルが読めるようになった。「豊め枯れる森の村」。……んん? 豊かなのに枯れるとは? ヒントにも飢えってあったし、見た目結構豊かな森みたいなんだが、それでも枯れるとか飢えとか不吉だな。

 いや不吉というか違和感なのか。恐らくあの、異界の大神の分霊の世界なんだろうけど、思ったより豊かな感じがしたんだが……もしかして、まだこの時点ではまだマシだったのか? このレーンズという青年が「遍く染める異界の僭王」になったのが、悪化の原因に関係ある?


「戻った。大丈夫か?」

「あぁ、おさめがみさま。よくお戻りになられ……おや、そちらの子供は?」

「気が付いたら森にいたって。嘘と敵意は無いから連れてきた」


 とか思っているうちに、どうやら村についていた。意外と近かったな。しかし村の周りには低い柵しかないし、村の中の道っぽい場所にも草が生えている。活気がない感じだ。あまりよろしくないな。

 で。レーンズ……まぁ呼び捨てていいか。レーンズが声をかけると、一番近くの……小屋だな。好意的に言って……から、人が出てきた。ふむ? 森の中と分かった時点で旗槍はインベントリにしまっているが、私の格好はドレス鎧なんだが。反応が薄いな?

 しかし今よく分からん単語があったな。おさめがみって何だ。おさ女神、長女神……いやレーンズの事を言っているんだから、おさめ神だろう。おさめ……どんな字を当てるんだ?


「おい。えーと」

「ルミルです。何か」

「あぁそうだ。いい格好しているが、今この村は食べ物が無い。村に置いてやるから我慢しろ」

「なるほど。割と豊かな森に見えましたが、何か問題が?」

「分からん」


 はて? と内心で首を傾げつつ会話を聞き流していると、こっちに話が振られた。まぁ確かに、村人っぽい人の様子を見る限り、かなり痩せてたからな。後で畑も見に行きたいが、たぶんそっちもダメなんだろう。

 それに森に入っていってたかつ神呼びされてたって事は、何か異常があってそれを調べてるんだろうなとは思ったが、やはりそういう事らしい。が、進捗は良くないみたいだな。


「散々調べて探しても森はおかしくない。森自体はおかしくない。病気でも無いし虫でも無いし獣はそもそもいない。何もおかしくないのに絶対おかしいから何かがおかしい筈なんだが、何がおかしいのか分かんねぇ……!」


 ぐしゃぐしゃとうっ血した肉の色の癖っ毛をかき回すようにして唸り声を上げるレーンズ。あー。これはかなり行き詰ってるな。

 たぶんこのまま何もしないと詰むというか、本来の歴史通りの流れになるんだろうなぁ……と思ったので、ちょっと思案。ここからの流れを捻じ曲げるかどうか。

 が。


「えぇと。オサメ神さま?」

「おさめがみな。修行中の神未満。修行は分かるよな? 見習いなんだよ」

「あぁ、そのおさめで修神おさめがみと。なるほど。……異世界ってどう思います?」

「は?」


 まぁ、ここで本来の流れになるのを黙って見てられるなら、これまで散々、死力を尽くして抗ってなんかない訳だ。


「実は私、たぶん推定異世界から来たことになると思うんですよね」

「は? ……はぁ?」

「なので、その異世界の技術でそれなりの量の食べ物を持ってまして」

「はぁ??? いや、そんなもんどこに、どう見ても手ぶらで着の身着のまま……は? 嘘が無い? は???」


 やっぱり嘘かどうか分かるっぽいな、あの万華鏡みたいな目。しかし修行中の神未満とか、仕組みが気になるところだがそれはまぁ後にするとして。

 いやー、調理器具一式ごと持ってきてて良かったよな。流石にあの痩せた村人相手に、私仕様のご飯はちょっときついだろうから。

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