第2560話 73枚目:果てにあるもの
ログアウトした私はリアルでストレッチをしながら、何が出てきてもいいように覚悟を決めて、タイマーが鳴ると同時に止めて再ログイン。そして倉庫にカバーさんが集めてくれた食料品をインベントリに押し込んで行動開始だ。一応食材と調味料と大きな鍋&深めのフライパンも持って行こう。
ルイル(とルール分体)は念の為お留守番。ほら、前も世界各地の
そして言うまでもなく、全員がちゃんと「界外環境耐性」付きの装備を持っている事を確認してから、再突入できるようになった「家」へと突入だ。普通に入れるし入った瞬間は大差ない、つまり大部屋に入るだけなんだが……。
「まぁ、そんな気はしました」
復活レイドボスの連続討伐が出来る状態だと、扉が閉まったら復活レイドボスが出現し、そのまま戦闘に入る形だった。のだが……まぁ大体予想していた通り、ガゴンッッ!!! と強い揺れと共に強い光が大部屋を塗り潰し……まぁ、全く違う場所にいたよね。
一応メニューを確認するが、連絡手段は全滅、オートマップは生きてるが、私が張り付けた生存確認のメモに反応は無い。これは予想通りなので、ここで「指針のタブレット」を確認する。
「おや?」
が。驚いたことに、ここには反応があった。それもサブクエストの方だ。周囲を改めて確認すると、そこに広がっているのは森なんだが、今の私から見て右斜め前にサブクエストの反応がある。
で、サブクエストのタイトルは……文字化けしてるなぁ。異界の言語なんだろうか。一方ヒントの方はというと「二重の飢えをどう解決したら良いでしょうか?」。……んん? どういう事?
初見のサブクエストだからか、クリアまでどれくらい時間がかかるかという目安の看板は出ていない。しかしこちらでも時間加速の倍率が分からないのか。困ったな。
「っ!? な、なんだお前っ!?」
「へ? ……っ!?」
とか思っていると、突然声がした。サブクエストがあるという座標の方から。いきなりなご挨拶だなとは思ったが、冷静に考えれば私の方がおかしいな。それはそう。
だからまぁその、驚きと警戒と怯えが混ざった声はまぁいいとして、声をかけてきたのが、だな。
「な、何だよ、何か言えよ……!」
「あー……いえ、その。私も、気が付いたら、ここにいて。途方に暮れていたもので……」
「……は? いや、嘘は言ってない……? 気が付いたらここにいた? なんでだ?」
見覚えが、あるというか……忘れる訳がないというか……。
服装こそ粗末もといシンプルな布の服で、革で出来たらしいマントを羽織って丈夫そうなブーツを履いて、それらが汚れている事から外を歩き回っていたんだろうな、って感じなんだが。
見た目が。細くどちらかというとなよったした体躯と、どこにでも居そうな印象に残り辛い顔立ち。ただし癖っ毛なのだろう髪はうっ血した様な肉の色で。何より。
「いや、いやでも嘘は言ってない……敵意も無い……?」
「はい。まぁ、初めまして? 私はルミルと言います」
「あぁ、あぁうん。うん? あ、名乗りか。自己紹介か。そうだな」
その目が……な。
少なくとも私は一度しか見た事が無いし、こんな特徴的な目は忘れない。ただあまりにも態度が違うし、ここまでの感じその効果も変わっているようだ。
……変わっているというか、むしろ、今が変わる前、なんだろうな。という気がしてきた。そうか。そう来るか。
「レーンズ。レーンズって呼んでくれ。まぁいいや。敵意が無いなら村まで来てくれた方が安心だ。ついて来れる?」
「はい、大丈夫です」
その、
そんな名前だったんだな。――「遍く染める異界の僭王」。
正しくは、「そうなる前」のお前は。
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