第2526話 73枚目:黙々攻略

 どうやら手慣れている召喚者プレイヤーもしくは住民だったらしく、大部屋前に水属性の壁系魔法を設置すると、相手にも大体の当たりをつけてくれたようだった。何か装備を確認する感じの動きをしてたからな。

 ただ魔法を設置する事は出来ても、それでダメージを与える事は出来ないらしい。壁系魔法を大部屋の中に設置してみたが、足止めにこそなったがダメージが入った様子は無かった。

 まぁでも、体力や再生力は個人で挑戦する為の難易度相応に調整されていたらしい。人影は無事に巨大スライムを削り切り、大部屋の中央に出現した魔法陣に乗って消えていった。


「で、一旦ブロックが消えたかと思ったら、またすぐ新しいのが生えてきたと……。もしかしてこれ、一緒に突入した全員がクリアするまで出れないとかでしょうか」


 情報が足りないんだよなぁ。と思いつつ、誰かがこちらに来ると言う訳でもなかったので、他のブロックの攻略補助に移る。

 とはいえ、基本は大部屋から迷路を逆にたどって魔法を設置するだけだ。使うのが「太平の夢」と「幸いの残滓」であれば5種類の「モンスターの『王』」をオリジナルとする復活レイドボスのどれかが出現するのは確定らしく、構造もほぼ変わらない。

 のだが、えーと、ログイン時間で4時間ぐらいが経過したのか。それぐらいまで続けても、ブロックの補充が止まらなかった。うん? おかしいな。設置したら次に行っているから、1つのブロックにかかる時間はそうでも無い筈なんだが。


「少なくとも、一緒に突入したメンバーぐらいは全員脱出出来ている筈ですが」


 ブロックの入れ替わりが進んでも領域スキルの展開範囲や負荷に変化は無いしな。とはいえ、可能性としてはあれだ。同じ住宅街パネル(仮)の「家」に突入した全員がこうなっているんじゃないだろうか。

 もちろん何人かは最初から「異界の石板」を持って入っていただろうが、人数が少ないからな。実際どうなのかは分からないが。何せブロックの中で攻略している人影が誰なのかは判別できないから。

 誰がいるのか分かれば、誰がいないかも分かるんだろうけど。いや、それを防ぐ為の判別阻害か? 特定の相手を優先したり放置したりしないように。


「気配りする場所が違うんですよね」


 もうちょっとヒントを寄こせっていうんだよ。そこじゃない。今だって「夢」アイテムと「残滓」アイテムをはめ込んで誘導して攻略からのブロック入れ替えを続けてるけど、これで合ってるのかちょっと自信が無くなってきている。

 だって何も変化がないからな。少なくとも私がいる場所では。一度に見えるブロックの数が増えている訳でも無いし、この空間が広がっているとか縮んでいるとかの変化は分からない。もちろん誰かが来る気配もない。

 せめてこう、住宅街パネル(仮)の攻略度合が分かったりとか、もしくは残り攻略ブロック数が分かるとか、連絡が取れない前提で情報が欲しい。確かに私は先の見えない作業に慣れている上に耐性があるが、だからって限度ってもんがあるだろ。


「まぁその辺親切にするぐらいなら、ここまで散々情報の出し方ド下手とこき下ろされはしませんか」


 はっ、と鼻で笑ってブロックの攻略補助に戻る。マジでどれだけ時間がかかるか分からない以上、出来るだけ手早く行動するべきだからな。それにアイテムは消費しているんだ。見る限りダンジョンのクリアも行われているし、流石にこれだけやってて無意味って事は無いだろう。

 時々、ぱたぱたと天井に向かって手を振っていたりする人影は見えるし、復活レイドボスを倒した後の大部屋をうろうろしている人影もいるんだが、恐らく動作も簡略化されているし、床に何か書いていても私には見えなくなっている。

 もちろん私からも、灯りの魔法を文字の形に並べようとかしてみたんだが、上手くいかなかったんだよな。だから連絡は取れない、でまず確定。……ログイン時間が尽きるまでには一旦脱出できるといいんだけど。

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