第2514話 73枚目:攻略法

 流石にエルルも、いくら攻撃を叩き込んでもノーダメージ、といった様子には思う所があったのだろう。少しずつ攻撃範囲を広く深く、多段に叩き込むようにしていったらしい。

 まずは指、次に手首、肘、肩、両腕、と少しずつ一瞬で斬り飛ばし、切り刻み、斬撃でありながらその部位を消し飛ばす結果となる範囲を広げていき、それが胴体の真ん中を捉えた時にそれは判明した。


ギィンッッ!!!


 明らかに明瞭で大音量の、弾かれる音。すぱすぱさくさく、攻撃すればするだけ削れてパーツが落ちてモンスターに変わっていたレイドボス「遍く染める異界の僭禍」においてその音が聞こえるというのは、ようやくの変化だ。

 当然、私も含めてその場の全員がその音の源へと視線を向ける。胴体の真ん中、オリジナルの時も核である、虹色の目をした若い男の姿をした何かがいた場所。

 どうやらエルルでもそこに当たった一太刀目で弾かれたらしく、露出したのは本当に一部だった。だが。


「目視確認成功、あの檻と同じ素材で確定です!」

「探索班、罠は!?」

「今のとこ何も無い!」

「床壊せるか!?」

「壁も試せ!」


 司令部の人(観測班)が、その露出した部分を見逃す訳がない。再生速度も案の定早いんだが、確実に1秒は見えていただろう。そして声を張って情報を共有。ここにいるのはベテラン勢なので、共有に対する応答と確認、からの次の行動開始が早い。まさに流れるようだ。

 ま、実際レイドボスというかこのダンジョンのボスである「遍く染める異界の僭禍」を抑えるのは、エルルだけで十分だろうしな。出現するモンスターは、少なくとも押し返される限界までは私が囲む形で領域スキルを展開しているから勝手に倒れる。


「――隠し部屋発見! 罠だらけだ、解除班頼む!」


 で。そんな声が聞こえたのは、そこから半時間ぐらいたった頃だろう。伝言の体で伝わって来たそれの元がどこかと探ると、何と大部屋の上の端から伸びている階段の下だった。

 探索を邪魔させない為にも、大体大部屋の真ん中に誘導する形で戦ってたからな。初期地点を調べるために少しは動かしたが、この大部屋本当に広いから。

 とはいえ私がやる事は領域スキルを展開し、「遍く染める異界の僭禍」を閉じ込める形に維持するだけなんだが。なのでいつの間にか右手奥の方向になっていた階段の方を見ると、確かにその、階段の形になってるだけの壁の途中に、大きな穴が開いていた。


「続報! 現時点で確認できた限り、罠の形で存在するのは「遍く染める異界の僭王」の能力に由来するものを除く4種類のみです! 核となっている部分を破壊する為には、本体への攻撃が必要と推測、攻撃を続行して下さい!」


 で、そこから出るなり司令部の人が拡声系のスキルを重ね掛けて共有した情報がこれだ。判断が早い。

 まぁ叩くのは必要だろうな。再生するにもリソースが必要だ。もしかしたら罠を含めて全種類揃っている間は再生コストが限界まで下がっているとか、罠がある限り実質無敵になっているとかいう可能性はあるだろうが、それ以前の問題あるいは前提条件として。


「隠し部屋が確認された瞬間、明らかにそっちに向かおうとしてますからね。絶対に行かせません」


 それぐらいはしてくるだろうし、それを少人数で何とかする形だったんだろう。たぶん。恐らく。運営の想定していたルートでは。

 何せここに来るには50㎝以下の太さの軽い足場を渡らなきゃいけないからな。しかも足を踏み外せば即死判定のある谷底に真っ逆さまという状態で。明らかに少人数で攻略する前提だ。

 まぁその割に足止めは大変だし罠の数は多いし探索範囲は広いしで難易度がおかしいんだが、その辺はフリアドの運営だからな。何というか、こう……慣れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る