第2500話 73枚目:単騎突入

 3枚目の陽炎のようなものの壁の向こうへ突入し、そこにいた(あった)巨大な歯車をアームごと魔法で吹き飛ばして着地。その時点で陽炎のようなものの壁は復活し……どうやら大物と言えど、あの陽炎のようなものの壁は越えられないようだ。

 当然その分は私に攻撃が集中する訳だが、今の私は領域スキルを全力で展開している。大物だけあって多少は領域スキル相当の能力を持っていたようだが、出力なら私の方が上だ。

 それに、普通に攻撃すれば倒せるんだから、精霊さんも含めて全力で魔法を使えば一掃するのもそう難しい事じゃない。むしろもっとどんどん来てもらわないと困る。まだ召喚者プレイヤー側の本格稼働には時間がかかるだろうが、少なくともベテラン勢はログインして現状を知ったら、順次陽炎のようなものの壁への攻撃に参加するだろうし。


「それまでに、少しでも圧を緩めておかないといけませんからね……!」


 それはそれとして、これだけの数がいる事とここまでのパターン的に、この大物も何かしらの条件で増える筈だ。気になるのは、ここにいる大物たちの内、アーム付き歯車だけは地面から生えてるって事なんだが。

 なんて思ったら、そのアーム付き歯車がアームから外れて、こっちにすっ飛んできた。危ないな。避けたけど。何せオリジナルも似たような事をしてきたし。歯車は飛ばすものだろ? と言わんばかりのあの猛攻は忘れてないぞ。


「あぁ、なるほど」


 で、歯車そのものは避けた。だが避けたという事は、この大物ぞろいの中で別の何かに当たるって事だ。正直に言えば同士討ちを狙ったんだが、やはり本質は“呑”むとやらによる再現という事か、普通に吸収された。

 ただそうして吸収した分だけその大物は大きくなって、本来の大きさを越えると、こう……背中のファスナーを開けるような感じで一部が開き、そこから別の大物がずるりと姿を現したんだよな。

 迎撃と領域スキルの展開は続けながら、ちょっと飛び上がって高さを稼ぎ、遠くまで見る。と。


「フレンドリーファイアというか、同士討ちをした分はお互いの回復になるんですね。面倒な」


 って事らしい。何せ、ナマモノロボもデッサン人形も肉塊も歯車もスライムも関係なくぶつかり合い、大きくなり、そして一部が開いて増えていたからな。正面衝突したナマモノロボとスライムがお互い後ろに下がりつつ巨大化して、それぞれ「開いて」大物を増やした時はちょっと待てと思ったが。

 明らかに増殖の条件が緩和されているが、まぁ仕方ない。が。現状一番面倒なのは、アーム付きの歯車だな。歯車を飛ばすのはともかく、アーム部分が動かないから、こっちから攻撃しに行かなきゃいけない。

 他のは領域スキルに自分で入ってくるし、領域スキルによるダメージは割合だ。領域スキル相当の能力を持っている分だけ相殺されるとはいえ、放っておけば倒れるし追加で攻撃すればいい。


「アームを狙って壊して回りながら、壁の内側をぐるっと回る、ぐらいはした方が良さそうですね。他の大物が影になる事で、飛んでくる巨大歯車の脅威度が上がっていますし」


 にしても、歯車なら旗槍で弾いてぶつけてもダメージになりそう、と思ったら、まさかダメージにならないどころか増殖するとは思ってないんだよな。どうしてそうなった。確かに厄介だけど。

 まぁ考えても分からないし、仕方ないな。とりあえず今は分かった事をメールに書いておいて、陽炎のようなものの壁が壊されるまでは頑張って倒せるだけ倒しておくとしよう。

 流石に私だけではどうにもならない数だが、それはそれだ。領域スキルのスリップダメージ及びセット効果的にも、周囲が敵だらけの方が効率がいいのもあるし。それに、やむを得ない状態での単騎行動だからな。目撃者もいないし、全力で暴れたって問題ないんだ。置物はそろそろ飽きた。言えないけど。

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