第2492話 73枚目:順調進捗

 やはり最初の1ヵ所は全力で壊しにかかったらしく、次の陽炎のようなものの壁が壊れたのは、そこから1時間以上経ってからだった。陽炎のようなものの壁の向こうに踏み込んだ時点で残りログイン時間は半分ぐらいだったので、あと4時間程だ。

 その間に砦の核となる部分は建築が終わっていたし、儀式場も出来ていたし、周囲を囲む物見やぐらを兼ねた防壁も2枚目の建築に入っていた。実に仕事が早い。

 まぁ私がいるのは変わらないし、そもそも領域スキルを全力で展開中だからな。領域スキルのバフ効果が全部乗っているなら、それで制御事故を起こさない程度のステータスがある以上はこうもなるか。


「ちぃ姫さん」

「なんでしょう」

「今現在「築城の小鎚」はお持ちでしょうか?」

「持っていますし、貸し出しはオッケーですし、領域スキルの回復対象に指定しておきます」

「助かります」


 2枚目の防壁が出来て、ここから繋いでいくぞって段階でカバーさんが来て、そんな会話はあったが。完成形の性能としてはちゃんと建材とスキルを使った方がいい筈だが、まぁ、こういう突貫工事の時は重宝するよな、あれ。一応城までは作れるようになってるし。

 私の領域スキルによるバフに加えて、私が魔力による耐久度の回復対象に指定しているから実質無限に使える「築城の小槌」まで加わって『牛肉工務店』の人達がヒャッハーしているような気配もするが、工事が進むのは良い事だ。手抜きだけはしないだろうしな。

 私は儀式場でブーストしてもらい、更に領域スキルの展開範囲を広げている。流石に急造とは言え儀式場によるブーストも入るとそれなりに負荷がかかるが、「築城の小槌」の分を含めてもまだ自然回復に収まる範囲だ。


「……下手に魔法を連発するよりも魔力を持っていかれるのですが。まぁ、その分工事が進んでいる筈ですし……」


 若干の不安要素が無くも無かったが、たぶん大丈夫だ。たぶん。恐らく。範囲を広げた事と召喚者プレイヤーが集まっている事で、セット効果でのステータス補正も入ってるし。

 さて。陽炎のようなものの壁を越えた場所の防衛ラインとなる拠点及び防壁の建築と構築は順調だ。そして陽炎のようなものの壁を越えた先でモンスターと構造物の群れを薙ぎ払うのも比較的順調らしい。

 一方、まだようやく昼前なので召喚者プレイヤーの稼働率は低めだし、その内のメイン戦力は陽炎のようなものの壁の向こうにほとんど集まっているので、陽炎のようなものの壁を壊す方はちょっと時間がかかってるみたいだな。


「まぁ、あれは別に、完全に塞がれない限り急ぎませんからね。なんなら後続の人達向けのサンドバッグとして扱ってもいいでしょうし」


 動かなくて頑丈でモンスター側の力の塊みたいなものだからな。殴れる状態にさえすれば、かなり良い経験値になる筈だ。火力を持つ召喚者プレイヤーは多くて困る事は無い。とりあえず現状を見る限り、手は足りてないからな。

 手っ取り早く壊すだけなら、それこそ神の力が込められたアイテムでも使えばいいんだろうが、あれは消耗品だ。神の力を借りるアビリティも相応に消耗するものがある。そしてこういう大規模戦闘において、消耗というのは出来るだけ少ない方が良い。


「……余力は、出来るだけ、残しておきたいですからね」


 何せ、今までの相手が相手だったからな。万が一とか念の為とかで残しておいた余力を、最後の一滴まで使い切らなきゃいけなかったから。むしろそれでも足りなくて、自分から危険域に踏み込む必要まであったし。

 まだ。まだ初日だから。リアル丸1ヵ月のイベントの初日だから。建材はともかく、消耗品は出来るだけ使わずに進めたいんだ。だって進めば進むほど、戦闘が激しくなっていくのは見えてるんだから。

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