第2471話 72枚目:最終加速

 突然降り注いだ武器の雨、それも前が見えなくなる程の豪雨並みの勢いで、恐らく魔法陣部分からモンスターと共に降って来たそれらは、しかしモンスターだけに当たっていた。

 まぁ、臼のオリジナルの事を考えれば分かる事だ。それに私が違和感を覚えた液体が染み込んでる感じ。あれも気のせいではなかったらしい。


『全体連絡! 推定「均し富める模造の禍臼」からオリジナル同様、触れると同じものに変化して反射してくる黒い物が発生していると思われます! よって黒い綱への直接攻撃は必ず投擲武器を用いた上で、司令部の指示を待ってください!』


 どうやら染み込んでいるように見えたのは、オリジナルこと「均し富める模造の魔臼」も使ってきた、上下の隙間から出てくる黒いもじゃもじゃしたものだったようだ。あれか。子供の落書きみたいな。なるほど。

 ただ攻略方法としてはやはり根元の、黒い綱を編んだドームのようなものに攻撃する必要があるらしい。空中に浮かぶ形になった魔法陣は、その巨大さからか減った様子が見えないんだそうだ。

 ……しっかりと「均し富める模造の禍臼」を「縛り連ねる外法の綱禍」が抱え込んでいるから、たぶん増幅率が一番高くて、それで減ってないように見えるんじゃないかな、と思うんだが、どちらにせよ時間が無い以上は別の削り方をするしかない。


『また、「均し富める模造の禍臼」本体と思われる露出した石臼部分への攻撃は変わらずに通用する事、2体のレイドボスはどちらにダメージを与えてももう片方の体力を吸収する形で同じ体力になる事から、露出した石臼部分を狙って下さい! 場所については司令部へご確認をお願いします!』


 あー……なるほどな。つまりニコイチのタッグを組んだタイプのボスではあるし、相互回復もするんだけど、前衛と後衛っていう役割分担はあった感じか。前衛が「縛り連ねる外法の綱禍」で後衛が「均し富める模造の禍臼」。

 後衛が余裕を持って動ける状態で前衛とやりあってても、そりゃ埒が明かない。ちゃんと前衛を動けなくするか動きの隙を見て後衛を狙わないと。


「まぁその後衛は亜空間に引き籠っていた訳ですが」


 とはいえ引き籠っている為に必要だったらしい結晶化した精霊は救出したし、それ以降も全力で削って来た。だから通常空間に出てきて直接攻撃できるようになったんだろう。それでもしっかり前衛が守っていたようだが、亜空間という姿消しを兼ねた盾が剥がれたのなら狙いようはある。

 実際、精度の高い攻撃であれば通じるんだな? と、ところどころに見えている石臼に攻撃が集中していた。ある程度攻撃されるとその部分が欠けて丸くなったり「縛り連ねる外法の綱禍」が動いたりして隠されるんだが、動くって事は他の場所が露出するって事だ。

 そしてその露出した場所がどこかって情報を、観測班が拾い損ねる事は無い。私からでは体力バーがどこにあるのか見えないんだが、たぶん、順調に減っていったんだろう。時々投擲武器の雨が降るが、その時はちゃんと退避しているし。


「というか、既に武器の雨がモンスターに対する全体攻撃になっているのですが」


 あの染み込んでる方の黒いもの、割と回復が早いらしく、ほぼモンスターが完封されているんだよな。若干の取りこぼしはあるし、空中の魔法陣の、上から出てくるモンスターには関係ないんだが、

 それでもまぁ、モンスターの総数が減れば召喚者プレイヤーは本体への攻撃に軸を移せる。すると更にダメージが加速する訳だな。良い循環に入って来た。


「体力を吸収しているのか分け与えているのかは分かりませんが、石臼を削った分だけ綱のドームも減っていますし」


 つまり、隙間が増える。攻撃できる場所が増えるって事だ。そうすると更にダメージを与えるペースが加速する。よしよし。このまま削り切れそうだな。

 ……体力バー(3段目)が、残り1割になるまでは。

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